モー娘。ライブの舞台裏 マニピュレーターがこだわる「呼吸」の大切さ

2018年、初となるメキシコ公演のステージに立つモーニング娘。'19(©UP-FRONT PROMOTION)

20周年イヤーを駆け抜けてきたモーニング娘。’19が、令和初となるシングル「人生Blues / 青春Night」をリリースした。Rolling Stone Japan vol.06に掲載された特集「スタッフとメンバーが初めて明かすモーニング娘。’19ライブの舞台裏」の中から、今回はマニピュレーター担当・大阪哲也 (アクティエンテ)氏の記事をお届けする。

大阪氏の仕事は、コンサートの大元となるサウンドを、MCのタイミングなどに合わせてPA卓に流すこと。モーニング娘。結成当初、大阪氏はバンドメンバーとしてキーボードを担当していたチームの古株。現在はマニピュレーターとして舞台袖からメンバーを見守っている彼に、外側からはわからない、メンバーや各セクションとの間で交わされる絶妙な「呼吸」について語ってもらった。

トラックは200以上ある

ー結成当初のモーニング娘。に対する印象はどういったものでしたか?

大阪 すごく小さい子たちで、「どこにでもいる子だな」っていうのが正直な印象でしたね。だけど、それぞれのキャラクターがとんがっているんですよ。「あ、個性ってこういうことなんだな」って。その後、後藤さん(後藤真希)が入ってきたあたりからものすごく注目を浴びるようになって、あれよあれよという間に人気者になって。あの時期のスピード感はすごかったですね。

ーモーニング娘。の現場における大阪さんの仕事はなんですか?

大阪 バンドメンバーだったときは、メンバーが「じゃあ、次の曲は○○です」って言うのに合わせて演奏を始めていたんですけど、曲紹介をした後に息を吸うタイミングで音が欲しいメンバーと、演奏が始まったときに息を吸うメンバーがいたので、そういうところは気にしていましたね。そのタイミングをメンバーごとに感じて音を出してあげないと、出だしが変なことになるんです。お客さんは気が付かないかもしれないですけど、たぶん本人は気持ちが悪い。ものすごく細かいことですが、そういうことを大事にしたいなとは最初から思っていました。今は演奏するのではなくボタンを押す立場ですが。

ー大阪さんは音のバランスの調整もするわけですよね?

大阪 そうですね。

ー客席にいるとオケのように聴こえますが、実際はコンピューター上でいくつものトラックに分かれているものをひとつの楽曲として流している。

大阪 そうですね。モーニング娘。さんはものすごい数に分かれています。例えば、メドレーになると200トラックくらいまでいきますよ。

ーそんなに多いんですか!

大阪 それが必要か、必要じゃないかって言われれば、結果的に1つあればいいんですけど、そこにたどり着くまでには、できるだけレコーディングしたプロセスに近いデータを手元に置いておくほうが、現場でリアルタイムに対応できるんです。だから単純に音を出すだけではなく、原曲のイメージをどうやってコンサートという空間で再現するかが大事なんです。その上でやっちゃいけないのは、「僕らの作品」にしてしまうこと。あくまでも、楽曲のイメージの再現なんです。

ーなるほど。各トラックをイジることで、その会場その会場に適したバランスに調整するんですね。つまり、音源と同じような曲に聴こえてはいるけれど、それはそう聴こえるように細かく調整していて、それがうまくできていればいるほどお客さんは何も感じないという。

大阪 そうです。だから、僕の理想はお客さんが「何かあったの? 特に何もなかったよね?」って思うことなんです。モーニング娘。’19の歌を聴いて、彼女たちの姿を見て、「あ、カッコいいね! かわいいね! また来たいね!」っていう印象だけが残るのが、僕の立場からすると一番いいコンサートなのかなって。それを突き詰めていくと、「CD流せばいいじゃない」「カラオケ流せばいいじゃない」ってことになるんですけど、そうしても実際には同じようにはならないので、舞台にいる人たちがよりカッコよく見えるように動いています。

ー具体的にはどういうことをしているんですか?

大阪 感覚的にはミュージシャンなんですよ。どこをどうイジると音が変わるのか、例えば、楽器の配置を変えたり、もっと突き詰めると、ピアノやギターのボイシングを変えたりするとより音楽的になっていくし、音のバランスをイジることで調整することでよりPA的な仕事に寄っていく。

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