米アラバマ州、小児性犯罪者の「薬物去勢」が波紋を呼んでいる理由

新条例は、13歳以下の児童に対する性的暴行で有罪判決を受けた者に、出所前のテストステロン抑制剤投与を義務化することになっている。(Photo by Peter Dejong/AP/Shutterstock)

米アラバマ州のケイ・アイヴィー州知事は現地時間10日、児童(アラバマ州法の定義では13歳未満)に対する性的虐待で有罪となった州内の性犯罪者に対し、出所の条件として薬物による化学的去勢を義務付ける法案に署名した。

物議をかもしているこの法案は、該当する性犯罪者に対し、男性のテストステロン生成を阻害する一連の薬物注射、通称メドロキシプロゲステロン酢酸エステル治療(女性向けにはDepo-Proveraという名称で、避妊薬の一種として一般に出回っている)を受けることを義務付けている。テストステロン抑制注射は一生投与されるわけではないが、新たに制定されたアラバマ州法では、有罪となった性犯罪者は少なくとも出所の1カ月前に投与を受け、判事が必要ないと判断するまで続けなければならない。

この法案(第HB379号法案)の動議を主導したのは、共和党のステファン・ハースト下院議員。2016年にも薬物去勢法案を提議していた彼は、地元メディアWAFF 48でこの法案を擁護した。「みなさんこれが非人道的だとおっしゃいます。児童への性的虐待以上に非人道的なものなどあるでしょうか? いいですか、それこそ非人道の最たる例のひとつです」とハースト議員。

念のために言っておくと、薬物去勢を法制化したのはアラバマ州だけではない。例えばカリフォルニア州でも、性犯罪を再犯した場合に薬物去勢を義務付ける法案が2010年に可決されている。テキサス州のように、強制ではないものの、性犯罪者への薬物去勢を認めている州もある(ミシガン州でも以前似たような法令が成立したが、1984年に異議申し立てがあり、撤廃された)。

薬物去勢は大きな波紋を呼んでいる。政府の命令による薬物去勢ともなればなおのことだ。薬物は数えきれない副作用を人体に害を及ぼす可能性がある(不妊症を引き起こす他、骨粗鬆症や心臓血管病に罹る危険性が高くなる)。ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のムーア児童性的虐待対策センター局長をつとめるエリザベス・ルトゥーノー博士は、政治的な観点からも、性犯罪者にこのような薬物投与を義務付けるのはあまり意味がないと言う。

「性的興奮を抑制する薬物は、自分では性的興奮をコントロールできないと自覚している人々には有効となりえます。収監されているかどうかに関わらず、自分たちにはこの種のサポートが必要で、薬物を頼みの綱としている人々です」と博士は言う。だが、性犯罪者の中でこれに該当するのは「ほんの数パーセント」。性犯罪者の大半は、最初から児童に「偏った」性的嗜好を抱いているわけではない。また薬物去勢の義務化の根底には、大勢の性犯罪者が再び児童虐待に走るだろうという考えがあるが、ルトゥーノー博士はこれを誤りだと述べた。

2018年のある論文によれば、性犯罪で有罪を受けた成人が再犯する可能性を25年間にわたって調査したところ、再犯率は18パーセントだったことが判明した。博士が言うように、他の犯罪の再犯率よりも低い。「性犯罪で刑務所に入った人間は去勢しなければならない、さもないと奴らは出所したらまた恐ろしい罪を犯すに違いない、という考え方は決めつけもいいところです。この問題がどれほど誤解されているかがよくわかります」と博士。

Translated by Akiko Kato

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