米アラバマ州、小児性犯罪者の「薬物去勢」が波紋を呼んでいる理由

これに加えて化学的去勢の義務化には、犯した罪の度合いに関わらず、明らかに倫理的な懸念がある。「どこか間違っている、時代に逆行しているような感じがします。もし実際に法が成立され、判事が薬物去勢を命じるようなことになれば、法的手段に訴えなくてはならないでしょう」と言うのは、アメリカ自由人権協会(ACLU)アラバマ支部で政策アナリストを務めるディロン・ネトルス氏。彼曰く、化学的去勢の義務化は、州が犯罪者に対して「残虐かつ尋常ならぬ刑罰」を科すのを禁じる憲法修正第8条に違反している、とACLUは考えている。

さらにネトルス氏は、性的虐待の本質を根本的に誤解しているとも語った。性的虐待に走らせるのは性的欲求というより、むしろ支配欲やコントロール欲なのだ。

「性的虐待の本質は権力です。性的快感や満足ではありません」と彼はローリングストーン誌に語った。「仮に13歳未満の児童に性的犯罪を働いても、(薬物去勢で)再発を防げるだろうと人々は考えていますが、この事実は性的虐待に関する事実のみならず、仮釈放の条件を満たした犯罪者を社会復帰させるというアラバマ州の刑事司法制度の目的をも揺るがすものです」

もちろん化学的去勢の目的は、性犯罪者に時代錯誤な正義を下すことではない。彼らが再び虐待に手を染めるのを防ぐことだ。小児性愛には確立した「治療法」がないことを踏まえれば、薬物去勢が性的欲求の抑制に有効となりうることを示す実証も、あるにはある。韓国の研究によると、薬物去勢を実施した患者の性的欲求が大幅に抑制され、性的思考の頻度も現象したことが判明した(ただし、調査対象の人数はかなり少ない)。

小児性愛に対する偏見のせいで、自発的に薬物去勢の道を選び、欲求を排除しようとする者もいる。だが、事前の同意なしに州が犯罪者本人に代わってこのような判断を下した場合は問題が生じる(同じような考えから、大勢の人権支持派らは警察による陰茎プレチスモグラフの使用にも疑問を呈している。波紋を呼んでいるこの器具はペニスへの血流を計測するもので、性犯罪者が未成年者に性的魅力を感じているかどうか測定するのに用いられるが、多くの人々が指摘しているように、性的欲求の測定器具としては信頼性に乏しく、裁判でも小児性愛の証拠としては採用されない)。

ルトゥーノー博士は性犯罪者に対する薬物去勢を義務づける代わりに、再犯の可能性があるとされた人々を対象に、広く一般的に行われている性犯罪予防対策を推奨している。「事件の後も(児童性的虐待を)追跡し続けるのです」と博士。「政治家のみなさんには、事件が起きる前の対策を練っていただかなくてはいけません。予防可能な公共衛生上の問題なのですから」

犯した罪の重さに関わらず、化学的去勢はとんでもない市民権の侵害だ、というのがACLUの見解だ。「我々は司法制度が小児性愛者や性犯罪者にどう対処するべきか、改めて考え直すべき時に来ています」とネトルス氏は言う。「実際に社会復帰をどうとらえているのか? つまるところ、出所した犯罪者が再犯することなく、このような問題や悪質な犯罪に直面した際には治療やサポートを受けられるような司法制度を目指すのであれば……(薬物去勢は)そうした制度を根本から揺るがすことになるでしょう」

Translated by Akiko Kato

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