ナードマグネットの音楽に溢れる、ポップカルチャーに支えられてきた人間の気概

本作のハイライトというべき、ウェリントンズ「Song For Kim」の日本語カバー「Song For Zac & Kate」では、そんな彼らのポップ・カルチャーに対する愛が全面的に展開されている。

「Song For Kim」は「かつて自分達が競演した、愛してやまない海外のバンドのメンバーに思いを馳せる歌」である。オーストラリアのパワーポップ・バンドであるウェリントンズは、90年代前半からアメリカでパンクとパワーポップを繋げる役割を担ってきたマフスのキム・シャタックに敬意を表してこの歌を作った。ナードマグネットはそういった楽曲の成り立ちを踏まえた上で、ウェリントンズのザック・アンソニーとケイト・ゴールドビーにこの歌を捧げたのだ(ナードマグネットは2017年に行われたウェリントンズの日本ツアーに帯同している)。しかもイントロではウェリントンズの「Come Undone」を、ギター・ソロでは「Freak Out」を、エンディングでは「Sight For Sore Eyes」を引用するという小技も効いており、ウェリントンズに対する愛情を歌詞のみならず音でもたっぷりと表現しているのだった。





ウェリントンズ「Song For Kim」のMVは、マフスの代表曲「Sad Tomorrow」が元ネタ。ナードマグネットの前作「C.S.L.」のMVも、この2曲へのオマージュが捧げられている。

ここで個人的な思い出を書かせてもらうと、筆者は2014年に行われたマフスの新代田FEVERでの東京公演の際に、わざわざ大阪から遠征してきた須田さんを見掛けたことがあるし、逆に筆者が2015年に行われたメアリー・ルー・ロードの心斎橋Pangeaでの大阪公演に東京から遠征した際には、会社帰りでスーツ姿の須田さんの方から私に話し掛けてくれた(須田さんは現役のサラリーマンでもあるのだ)。

さらに須田さんは、筆者が渋谷で不定期に開催している「はみ出し者映画」のしがないイベントで上映されるルーカス・ムーディソンの『リリア 4-ever』を観たさに、名古屋でのYON FES出演の翌日であるにも関わらず来場してくれるわで、とにかく音楽のみならず、ポップカルチャー全般とはみ出し者に対する愛に溢れた最高の人間なのであります! アンディ・ウォーホルの『キャンベルのスープ缶』を例に挙げるまでもなく、「ポップ」の真髄とは取るに足らないと思われていた物の中から価値を見出すことであるわけで、ナードマグネットは音楽からも生き方からも、真にポップを体現しているバンドであるといえる。

もちろん、ここに書いてきたようなリファレンスの数々を知らないという人もたくさんいるだろう。だが、ナードマグネットがこうしたポップカルチャーを本当に心の底から愛していること、それらに突き動かされてここまでたどり着いたということはきっと伝わると思う。そして、『13の理由』の痛ましい物語が、こうやって切なさを抱えながら疾走するポップソングへと昇華されていったということ自体が、まさにこの世界における希望ってものだろう。『透明になったあなたへ』を聴けば、世の中まだまだ捨てたもんじゃない、と思えるはず。



〈リリース情報〉


ナードマグネット

『透明になったあなたへ』
発売中

〈ライブ情報〉

2019年6月22日(土)
FREEDOM NAGOYA 2019
愛知県名古屋大高緑地特設ステージ

2019年6月23日(日)
OTOSATA ROCK FESTIVAL 2019
茅野市民館(長野県茅野市)

2019年6月28日(金)
【インストアイベント】大阪編
タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース

2019年6月29日(土)
WHAT GIVES JAPAN TOUR 2019 愛知 栄Party’z

2019年6月30日(日)
 "makuake" release tour.
高松TOONICE

2019年7月7日(日)
【インストアイベント】東京編
TOWER RECORDS新宿店7Fイベントスペース

2019年8月4日(日)
ULTRA SOULMATE 2019
大阪城音楽堂

2019年8月10日(土)
だいそうさくツアー 千葉編
千葉LOOK

2019年8月11日(日)
だいそうさくツアー 栃木編
宇都宮HELLO DOLLY

公式サイト:https://nerd-magnet.com/

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