星野源×トム・ミッシュ対談 音楽に正直であり続けるための方法

音楽を作るのは好きだけど、生活に影響を及ぼすのは楽しくない

―トムさんは以前、インタビューで「過度に有名にはなりたくない」と仰っていましたよね。かつ、1stアルバムの『Geography』を作り終わった後は「何年間かは音楽なんか作りたくない」とまで思ったとか。今、現在は音楽を作ることに対して、どんな風に考えていますか?

トム:そんなこと言ったっけ……?

星野:あはは(笑)。

トム:いや、でも、そうだね。葛藤は常にあるよ。音楽を作ることはもちろん好きだし、ずっと作り続けていきたいとは思ってるんだけど、たくさんの人に知られることでそれが普段のロンドンでの生活に影響を及ぼすのは、まったく楽しくないね。

星野:わかるなぁ。僕もそれに押しつぶされそうだった。どんどん曲を作って、いろんなところにライブもしに行きたいんだけど。忙しくなればなるほど、自分の生活がどんどんなくなっていっちゃうんだよね。

トム:でも、源はすでにかなり有名だよね。

星野:うーん、でも、日本だけだから。

トム:そうなんだ。

星野:僕も今はトムみたいに普通の毎日を大事にしたいなって思ってるよ。

トム:日本を離れて、もっと静かなところに行きたいと思ったりする?

星野:思う。思うよ(笑)。

トム:そうだよね。今、思い出したんだけど、僕がもう音楽を作りたくないって思ったのは、『Geography』の制作がとにかく大変だったからなんだ。締め切りがキツくて。自分一人で作っていたから、すごく孤独な作業だったし。その時、ロンドンは夏だったんだけど友達はみんな休暇でどっか行っちゃってて、僕抜きで楽しいことしてるし。それで嫌になっちゃったんだよね。でも、今は時間的にも余裕があるし、音楽を楽しむことができていると思う。




Photo by Masato Moriyama

星野:わかるよ。僕もアルバムを作り終わった後は、やりきってすごく疲れてしまって。虚脱感みたいなものがあったんだよね。でも、その後、ライブをやっていく中で自分の音楽が聴いてくれてる人にすごく伝わっている感じがして。

トム:うんうん。

星野:日本人ってあんまり自分の好きなように踊るのが得意じゃないと思うんだけど、僕のライブではお客さんが好き勝手に踊ってくれていて。自分のグルーヴみたいなものがちゃんと伝わってるんだな、音楽って楽しいなって改めて思えたんだよね。心の余裕が出てきた。それで、またやる気が出てきたんだ。

トム:あぁ、そうだよね……。アルバムのサウンドをライブに移し変えることは大変だった?

星野:僕の場合はレコーディング・メンバーとライブのメンバーは大体一緒なんだ。だから、演奏すれば、そのまんまそのサウンドになる。トムの場合は? アルバムは一人で作ってるんだもんね?

トム:そうだね。でも、そんなに悩まなかったかも。『Geography』はライブを想定して作った作品だったから。なるべく曲に含まれる要素をごちゃごちゃした感じにしたくなくて、シンプルに作ることを心がけてたしね。

星野:トムのライブはアルバムの良さがさらに生々しく増幅されて伝わってくる感じがして、すごく良かった。途中でどこにいくのかわからなくなるインプロヴィゼーションの部分とか、エキサイティングで。

トム:うん。予測できない要素があるから、毎晩楽しくライブができるんだと思う。昨日はサックスが参加してくれたけど、いつもと違うミュージシャンが加わると余計にね。もちろん、そういう不確実な部分っていうのはいいところも悪いところもあるんだけどね。「このあいだの方がよかったな」とか正直思うこともたまにあるけど……それがライブの醍醐味でもある。源みたいにアルバムを聴くのと、ライブを観るのとで全く同じ体験ができるような作品を作りたいなってことはずっと思ってる。

星野:昨日もライブの後に言ったけど、曲の途中で急にアイズレー・ブラザーズの「Between the sheets」を織り込んできたの、めちゃくちゃ興奮した。演奏を聴きながら「あ、同じコード進行だ」ってまず思ったんだけど、あそこであの曲がくると思わなくて。あれは前からやってるの?

トム:あの曲、大好きなんだ。クルアンビンっていうテキサスのバンドがいるんだけど、知ってる? 3人組でドラムとベースとギター・ヴォーカルっていう編成で、ヒップホップのメドレーとかをやるんだけどさ。彼らをライブで観て、インスパイアされたんだ。

星野:へー、知らなかった。聴いてみよう。

Translated by Kazumi Someya

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE