クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙

「Evan Finds the Third Room」は、まず短いイントロがあって、ドラムのフィル・インとともにメインのパートが始まります。これを「A」と呼ぶことにします。「A」は2小節ひと回しのフレーズが4回演奏されます。都合8小節で構成されるパートです。その次に、男女混声の薄いコーラスが加わります。このパートを「A’」とします。演奏に変化はなく「A」と同じフレーズが繰り返されているように感じるかもしれません。けれども意識して聴いてみると微妙に変化していることがわかるかと思います。何が変わったのかといえばベースの音価です。

音価というのは音の長さを表す音楽用語です。リハスタ、レコスタなどでは「そこのフレーズはもっと短い音価で弾いてくれる?」、「Dメロなんだけど、もうちょっと音価を長くして歌ったテイクももらっていい?」なんて会話が飛び交っています。

「Evan Finds the Third Room」におけるベースの音価に話を戻します。ベースはイントロからずっと短めの音価で演奏していましたが、「A’」から音価が若干長くなります。これには一体どのような効果があるのでしょうか。

音価の短い「A」のほうはタイトで緊張感があります。音価が短いと自ずと演奏していない箇所、いわゆる休符が長くなります。休符というものは文字通り何もせずにお休みしている箇所と考えがちですが、さにあらず。休符はホースで水遊びをする際にホースの先端をギュッと絞ってホース内の緊張感ないし水圧を高めている状態だと考えてみてください。反対に、音が出ている箇所、いわゆる音符はホースから水が放たれている箇所です。尾籠な例で恐縮ですがトイレを我慢しているときのことをイメージするとわかりやすいかもしれません。話を整理すると、休符が緊張、音符が緩和という役割を担っているということになります。この「寄せては返す緊張と緩和の波」を体で感じ取っていただけたらと思います。

「Evan Finds the Third Room」の「A」におけるベースは休符が長い分、緊張の割合が大きいといえます。一方、音価の長い「A’」はベースが醸し出すリズムの雰囲気が若干ゆるく、緊張感のある「A」に比べると解放感があるように感じます。「よろしくお願いしますッ!」を「よろしくお願いしま〜す」と言い換えてニュアンスを変える感じと言ったら良いでしょうか。このように、ベースの音価コントロールによって場面の空気を変えることが可能です。

音価によって同一のフレーズに変化をつけるというテクニックは、寡聞にして他に例をあまり知りませんが、ジェームス・ブラウンの「Super Bad」でブーツィー・コリンズもこのテクニックを披露しています。ギターがカッティングを始める箇所で、それまでタイトに演奏していたベースラインの音価を長くして変化をつけています。タイトなリズムを積み重ねたうえで、同一のグルーヴ感覚を保ったまま緊張感を解放して盛り上げるという演出になっています。

Rolling Stone Japan 編集部

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