宇野維正が解説、チャイルディッシュ・ガンビーノ成功の秘訣は「コメディアン」というアイデンティティにあり

チャイルディッシュ・ガンビーノ(Courtesy of Sony Music Japan International)

シンガー、ラッパー、俳優、コメディアン、脚本家――稀代の万能型エンターテイナーにして、第61回グラミー賞では「ディス・イズ・アメリカ」が“年間最優秀楽曲賞/レコード賞に輝いた初のラップ曲”にもなったチャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローバー。この男はなぜ、これほどまでの快進撃を続けられるのか? グラミー四冠という華々しい栄誉とは裏腹に、決して順風満帆とは言えなかった2018年。だが、それでもなお、この異形の才能は多大な期待を集め、注目の的であり続けている。その理由を音楽ジャーナリストの宇野維正が解説する。

『アトランタ』1stシーズンに度肝を抜かれ(日本では本国から1年遅れて2017年9月にFOXチャンネルで初放送された)、ドナルド演じるランド・カルリジアンが特別な存在感を放つ『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のトレイラーが公開されて、『ライオン・キング』の主人公シンバの声を演じることが発表されて(ヒロインを演じるのはビヨンセ)、2018年には『Awaken, My Love!』に続く4作目にしてチャイルディッシュ・ガンビーノ名義での最後のアルバムがリリースされるとの噂が飛び交っていた2017年の終わり。もしかしたらドナルドは、再来年あたりエミー賞、アカデミー賞、グラミー賞を同時期にすべて受賞する史上初のエンターテイナーになるのではないかと興奮せずにはいられなかった。

ちなみに受賞時期がバラバラだったら過去にもそうした万能型エンターテイナーはいて、黒人男性ではジョン・レジェンドがトニー賞まで含めたEGOT受賞者(エミー、グラミー、オスカー、トニーの頭文字を並べてそう称される)だったりするのだが、その集中的な仕事量だけとってみてもどう考えても不可能な、プロデューサー(及び脚本、監督)、主演俳優、ポップスターとして同時期にアメリカのエンターテインメントの頂点に立つという偉業を可能にしてしまうような勢いが、あの時期のドナルドにはあった。

さて、2019年。フタを開けてみれば、『ハン・ソロ』は『スター・ウォーズ』スピンオフ映画の息の根を止めてしまった失敗作と位置付けられ、チャイルディッシュ・ガンビーノとして「最後」の北米ツアーはあったもののニューアルバムのリリースは延期されたまま、『アトランタ』2ndシーズンは相変わらず高評価を受けながらも1stシーズンに続いてのエミー賞受賞は逃し、その一方で単発でリリースした「This Is America」がグラミーで主要2部門(最優秀楽曲賞、最優秀レコード賞)を含む4部門を制覇してしまった。未来は誰にもわからない。きっと、ドナルド本人にも。

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