人間椅子・和嶋慎治が「青春の情熱」のまま、一度も休まず30年間バンド活動できた理由

人間椅子が持つ「暗さ」のカタルシス

―『新青年』は、楽曲の並びも趣深いです。

和嶋:これは考えましたね。ハマるべきところにハマってる。前半はわりとヘヴィな感じ。あまりに違う曲調が続いちゃうと、散漫な感じになると思うので、曲の並びは前半でわりと低いチューニングを多くして、憂鬱な感じを出しました。で、途中から、やや明るめの曲調に行くようにしています。そして、一度「月のアペニン山」という曲で仕切り直しをしまして、また暗い曲が始まって終わるという構成です。

―人間椅子というバンドをあまりよく知らない人にとっては、ダークなイメージが先行していると思うのですが、暗さの果てにあるすがすがしさも魅力ですよね。

和嶋:ひと言で「暗い」って言っちゃうと、リスナーとしては暗い気持ちになって終わることをイメージするかもしれないですけど、そこは目指してないんです。聴いて、なんとなく気持ち良くなることを目指しています。

―それこそ、ロックの根本ですよね。

和嶋:そうです。そういうのが良いと思うんです。それを別の言葉で言うと、「カッコいいな!」っていうことですけどね。

―そして、人間椅子の楽曲からはハードロックの大先輩たちへの想いが自然と滲み出ています。

和嶋:はい。似てる曲もありますね(笑)。あとはやっぱり、日本語でやることにこだわって30年続けてきました。いたずらに海外の音楽をそのままやって、そこにただ日本語を乗せるのではなく、サウンドの面でも時々オリエンタルな感じを入れたくて。それが日本人のやるロックのアイデンティティかなと思ってるので、今回も「いろはにほへと」という曲では、大正琴を使ってみたり、和風なフレーズを入れてみたりしました。

―ロマンチックな響きですよね。

和嶋:和風のフレーズをリフ中心のロックに入れると、自分でもやってて楽しいんです。そういうアイデアを思い付いたら、「これはやったぞ!」っていうね。うまくやれば、クサくならずにちゃんとハマるもんですよ。その加減が難しくて、過剰に入れると演歌みたいになっちゃう場合もあります。

―そもそも、ロックに日本語を乗せることの難しさもあるでしょうね。

和嶋:本当は無謀な試みですけどね。他のバンドの皆さんも、そこを意識しながら、頑張ってやってると思うんです。

―そこに人間椅子特有の青森の土着性などが加わり、良い味が出るのでは?

和嶋:そうですね。日本語を乗せるうえでこだわっているのは、わりと古臭い言葉を使うことでしょうか。英語特有のノリの良さってあるじゃないですか。英語は韻を踏めるし、単語が短かったりするんで、すごいノリが良いんですよ。その点、日本語ってノリが悪いんです(笑)。それをどうしようかっていう時に、わりと古臭い言葉の言い回しにすれば調子が出ると思うんです。短歌や俳句のような七五調とまでは言いませんけど、口語ではあまりやらない感じで歌詞を書くと、やっぱりノリが良い。そういうのは多用してますね。「あなたの知らない世界」という曲のBメロはあえて古文調にしたんですけど、これを最初、口語で書いてみたら、かえって偉そうに聴こえてしまって。ストレート過ぎて、婉曲な感じにならないんですよね。

―そういうものなんですね。奥が深いです。

和嶋:厳しいことを口語で言うと、本当にキツく感じてしまう。これを古文調にしたら、結果的に婉曲表現になると思ったんです。少しワンクッションを置けるし、語呂も良くなる。そんな感じで使い分けて、歌詞を書いてますね。

―そういった言葉の選択も、和嶋さんの豊かな読書経験に基づくものだと思うんです。

和嶋:本当は、古文なんか全然得意じゃないんですけど(笑)、自然に古典的な言い回しは出てはきますんで。なんとなく感覚で書いて、辞書で活用が間違ってないかとか調べて書いてます。そんな感じで歌詞にはこだわりを持ってますね。

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