とはいえ、ほんの5年前の彼はこんなプロップスは得ていなかった。人気と知名度はあれど、それはあくまでボーイアイドルとしてのもの。ヒスパニック系のアーティストと交わる音楽的な文脈は持っていなかった。2011年にリリースされた3rdアルバム『Believe』はティーンポップを卒業しようとR&Bに手を伸ばした作品だったが、そこまでの評価は得ていなかった。2013年から2014年にかけてはゴシップばかりが報じられ本人の精神状態も荒廃し、このまま「お騒がせセレブ」として終わっていく道もあった。
最大のターニングポイントになったのはディプロとスクリレックスとの出会いだろう。二人のユニットJack Üに参加した「Where Are Ü Now」を2015年2月にリリースし、この曲でグラミーを初受賞。
Skrillex and Diplo - "Where Are Ü Now" with Justin Bieber
そして両者が深く関わった同年のアルバム『PURPOSE』は彼の評価を一変させる一枚となった。その後ポップシーンを席巻するトロピカル・ハウスやダンスホール・ポップのサウンドを体現していたこと、トラヴィス・スコットやホールジーをいち早くフィーチャリングに迎えていたことも含め、2015年時点におけるこのアルバムの音楽的な先鋭性は図抜けていた。
Justin Bieber - Sorry
2016年にはメジャー・レイザーとMØとの「Cold Water」やDJ Snakeとの「Let Me Love You」をヒットさせているが、これも当然ディプロとの関係性ありきのものである。
ちなみに『PURPOSE』は2015年11月13日にリリースされたのだが、まったく同日に発売されたのが、それまで無類の人気を誇ったボーイバンド、ワン・ダイレクションの結果的に最後の一枚となった『Made in the A.M.』だった。その後の両者の辿った道筋を考えると、実はその日が2010年代のポップカルチャーの分水嶺となった1日と言えるかもしれない。
Edited by The Sign Magazine