トランプ政権、気候統計をコントロールして「反環境政策」推進中

2018年8月21日、ウェストヴァージニア州チャールストンで行われた政治集会に参加するドナルド・トランプ大統領の支持者。(Photo by Mandel Ngan/AFP/Getty Images)

先週、トランプ米政権による情報操作の最新事例が発覚した。ニューヨーク・タイムズ紙が報じたところでは、環境保護庁(EPA)がオバマ政権時代の環境保護政策を排除するべく、汚染による想定死亡者数の算出方法を変更する計画を進めている。

トランプ政権は昨年8月、2015年のクリーン・パワー・プランに代わる新政策として、石炭業への制限を緩和した場合の便益分析を行った。その結果、新政策を実施すれば大気中の微小粒子状物質(呼吸器系疾患やその他疾患の原因物質)が増加し、それによって2030年までに年間予測死者数は1400人にのぼることが判明した。Affordable Clean Energy Rule(入手可能なクリーンエネルギー法)と題した政策案は、6月に最終版が発表されることになっている。

だが政権側は、微小粒子状物質PM2.5の濃度を現在の法定基準値以下にしたところで国民の健康にはなんの益ももたらさない、という考えに基づいて「新たな分析モデル」を採用。そのため、最終版には予測死者数が盛り込まれないようだ。タイムズ紙はこのように論じている。

「この問題を分かりやすくするために、多くの専門家は、粒子状物質の基準値を速度制限に例えている。大半の高速道路では公共の安全を確保するために、速度を時速65マイルに制限するのが妥当だと考えられている。だからと言って、時速55マイル、もしくは時速25マイルで事故の危険性がゼロになるわけではないのだ」

EPAで大気汚染および放射能を担当するウィリアム・ウェラム事務次官はタイムズ紙に対し、新モデルにより「問題が浮き彫りになる」とタイムズ紙に述べ、今回の変更を擁護した。トランプ大統領の息がかかったEPA職員にはよくあることだが、ウェラム事務次官もEPAに入庁する前は、石炭産業を支援するロビー活動など、長年EPAに反発してきた。下院議会エネルギー商業委員会は、ウェラム事務次官が新たな職場で以前の顧客に便宜を図っていたのではないかとみて、調査を始めた。

トランプ政権が気候統計をでっちあげて、反環境政策の制定をもくろむのは今回が初めてではない(8月、政府は二酸化炭素排出が経済に及ぼす影響力の分析調査で、主要な測定基準をいくつか割愛した)。これは環境問題だけにとどまらない。石炭産業に有利なEPAの新解析モデルの記事がニューヨーク・タイムズ紙に掲載される数週間前、行政管理予算局は連邦政府による貧困の定義を変更する提案書を公表した。もし変更するとなれば、大統領は自分に都合のいいように貧困者数を操作できるようになり、何百万人ものアメリカ国民が政府給付金を受け取れなくなってしまう。

行政管理予算局は提案書で国税調査局に対し、貧困を定義する際に基準年の消費者物価指数ではなく、消費者物価指数を用いるよう要請している。消費者物価指数を用いるとインフレ率は緩やかに上昇することから、さまざまな政府保護プログラムの適用基準も引き上げられ、何百万人もの低所得者に影響が出ることになる。

弱者を痛めつけることに関しては、トランプ政権の創意工夫は留まるところを知らない。その一方で、2017年に大統領が署名した税制改革はアメリカの富裕層に数多くの公的援助をもたらした。トランプ大統領はこの改革を「アメリカ国民にとって歴史的な勝利」と謳っているが、恩恵を受けているのは、唯一ではないにしても、主に社会の上層部だ。超党派の議会調査局は先週、税制改革が平均賃金または経済成長を著しく押し上げたどうかを結論づけるのは時期尚早だとする分析結果を公表した。

Translated by Akiko Kato

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