現場目線で振り返る、2010年代の日本語ラップシーン座談会

KOHH(Photo by David Wolff - Patrick/Redferns)

新世代の台頭やフリースタイル・ブームも追い風となり、躍進が続くジャパニーズ・ヒップホップ。その顔ぶれや音楽性のトレンドは、この10年で大きく変化した。そこで今回は、元・blast編集長/現・Amebreak編集長の伊藤雄介、楽曲制作/DJプレイを通じて近年のシーンを支えてきたDJ CHARI & DJ TATSUKI、レコード会社ディレクターのA氏(匿名での参加)を迎え、2010年代の日本語ラップを振り返る座談会を実施。音楽ライター・渡辺志保を進行役に、メディア/DJ/レーベルというそれぞれの視点から語ってもらった。

※この記事は2019年3月25日に発売されたRolling Stone Japan vol.06に掲載されたものです。
※本文中で言及されるアーティスト名は、一部を除き原則的に敬称略。
※参加者プロフィールは記事末尾に掲載。



2010年という境界線

渡辺志保(以下、渡辺):今回のテーマを踏まえて、まずは2010年に起こったことを簡単にまとめてみました。AKLOのミックステープ 『2.0』 、DJ TY-KOH feat. SIMON, Y’s 「Tequila, Gin Or Henny」のヒット、あとはDABOさんの『HI-FIVE』、Ski Beatz「24 Bars To Kill」のリリースも2010年だし、「田中面舞踏会」(※)が盛り上がってきたり、インターネットがひとつの現場として機能し始めたのもこの頃かと。

※まだTwitterの浸透度の低い=ユーザー同士の交流が密だった2009年末から活動している謎のアカウント「今夜が田中(@konyagatanaka)」に引き寄せられた面々による集団T.R.E.A.M.主催のパーティ。2016年にはコンピレーション『LIFE LOVES THE DISTANCE』も発表された。

レコード会社ディレクターA氏(以下、A氏):ですね。

渡辺:もう一つ、テキジン(「Tequila, Gin Or Henny」)のヒットなどもあり、クラブで日本語ラップが普通にかかるようになってきたのもこの時期で。クラブ・イベントの「BLUE MAGIC」がスタートしたのは確か2009年、ZEEBRAとDJ CELORY、DJ NOBUの「KUROFUNE」も2010年……BLASTが2007年に休刊したあと、こういう大きなうねりが現場を盛り上げていったように思います。


ロイド・バンクス feat. ジュエルズ・サンタナ「Beamer, Benz, or Bentley」(2010年)をジャックした人気曲 「Tequila, Gin Or Henny」。記事中の通り、来日していたDJキャスト・ワンを通じてHOT97でもプレイされる快挙に。

DJ CHARI(以下、CHA):「テキジン」が流行ってた頃は、「BLUE MAGIC」もマジで盛り上がってましたよね。

伊藤雄介(以下、伊藤):クラブ・プレイで日本語ラップがかかるようになったと言うよりは、「かかんないとマズいだろ」っていうアーティスト/DJサイドの空気が行動として表れたんだと思います。今のように、例えば洋モノのヒップホップに合わせてAwich(※)の曲がかかるみたいな自然な流れではなく、どちらかというと「仕掛けた」って感じに近いと思いますね。

※YENTOWNクルーのシンガー。沖縄出身。ハードな生い立ちが反映されたリリック、バイリンガル・ラップ、力強いヴォーカルが特徴。Chaki Zuluプロデュースのもとアルバム『8』を2017年リリース。

渡辺:まさにそうだと思います。

伊藤:あと、日本におけるヒップホップとインターネットの関係性に関して言うと、日本はだいぶ遅れてたと思います。アメリカではTwitter以前に、まずMyspaceから始まってるんですよね。日本のラッパーのほとんどはMyspaceを活用してなかったと思う。そこでまず5年くらいは出遅れていましたね。

DJ TATSUKI(以下、TA):Myspaceは使いにくかったからね(笑)。でもTwitterは日本人に合っていた。

伊藤:厳しいことを言うと、当時の日本のラッパーはネットリテラシーが低かったとも言える。

渡辺:特にネットでのプロモーションやアウトプットに注力せず、CDの売り上げを重視していたということでしょうか。あと、やっぱり、リスナーとしても「音源はフィジカルで買ってナンボ」みたいな意識もあった?

伊藤:それもあったと思います。当時はまだフィジカル依存の時代だったし、CDの売り上げで食えちゃう人も多かったから。

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