現場目線で振り返る、2010年代の日本語ラップシーン座談会

BAD HOPとAK-69の関係

渡辺:彼ら(BAD HOP)が去年、武道館公演を成功させたのは大きかったですよね。ゲストもなし、本人たち以外でステージに上がれたのはバックDJを担当していたDJ CHARIだけだったという。

CHA:ハハハ(笑)。

渡辺:BAD HOPがなぜ、あそこまで大きくなれたのかを識者のみなさまにお聞きしたいなと。彼らの何が新しかったのか、どこがお客さんを引き付けるのか。

TA:仲間だけでやってる、っていうのはある。

CHA:うん。それからT-Pablowくんが先にあれだけハネてるっていう。

TA:ブレてないのもスゴイと思います。


BAD HOPは2018年11月13日、日本のヒップホップ・アーティスト史上最年少で 日本武道館でのワンマンライブを成功させた。

伊藤:彼らの成功って、僕は奇跡だと思っていて。BAD HOPのサクセスストーリーはテンプレート化しようがない。まず、 バックグラウンド(※)が一般人の基準からすると特殊すぎるし、そのバックグラウンドをポップなコンテンツとして見せることができた「高ラ」を活用して名を上げ、しかもバトルに出ても優勝できるスキルがあった。そういう下地と、ここまで上がってくるまでの経緯がちょっと奇跡的すぎる。さらに、リーダー格であるYZERRが商才に長けた男だという。

※複雑な家庭環境、川崎の不良社会で育ったBAD HOPの過酷な生い立ちについてはリリックでもたびたびテーマとして登場する。磯部涼『ルポ 川崎』も参照されたい。

A氏:曲作りのセンスもありますしね。

伊藤:ちゃんと海外のヒップホップも追っていて、時差のない音楽を作ることもできる。こんな奴ら、なかなかいないぞって(笑)。

渡辺:CHARIくんとTATSUKIくんは、すごく近いところでBAD HOPのメンバーと接することもあると思うんですけど、他の若手アーティストと比べて「ここが違うな~」と思うところはあります?

TA:YZERRくんがしっかりリーダーとして仕切ってるのが印象強い。

伊藤:指令系統がハッキリしてるっていう。

TA:2年くらい前にCHARIと俺とYZERRくんで呑みに行ったんですけど、その時既に、「2018年何月何日に武道館」ってもう頭の中のビジョンで決めてて……。

CHA:紙に書いて持ってきてた。

TA:そういう部分、年下には思えない(笑)。

渡辺:そこはYZERRに絶対的な自信があるからでしょうね。

伊藤:自信と野心に加えて、後には引けない、これで成功しなくちゃいけないっていう切迫さ。だからこそマネできないし、奇跡的だと思う。

渡辺:指令系統がハッキリしてるのは、本人たちに会えばパッとわかるんですよね。それもすごいことだと思います。逆に、この関係が崩れてしまうことはあるんだろうか?と余計な心配をしてしまうこともあります。

伊藤:でも、彼は年齢的に先輩というわけではないんですよね。幼馴染で過酷な幼少期を共に生き抜いてきたからこその、血よりも濃い結束で繋がってるので、彼らはそう簡単に崩れなさそうな気もしますけどね。例えば90〜2000年代の代表的なクルーだとNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDとか雷家族みたいな人たちがいるけど、彼らは明確なリーダー的ポジションの人がいなかったから、それが自分たちの音楽のカオス感に繋がり、魅力にもなっていたと思います。そういった意味では、同じ集団でも、そういったレジェンドたちとはBAD HOPはまた性格が異なる。

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