現場目線で振り返る、2010年代の日本語ラップシーン座談会

ラップバトルが残したもの

渡辺:「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」「フリースタイルダンジョン」の話もしておくべきかなと思います。BAD HOPやちゃんみな、あっこゴリラなど、2015年以降のバトルシーンが輩出してきた人材には、間違いなくスターがいる。

A氏:「高ラ」の第1回は2012年でしたっけ?

渡辺:そうです。

伊藤:なんで「高ラ」が生まれたかっていうと、さっきも話したように20歳くらいの若いラッパーがMCバトルでも出てきたんですよね。R-指定なんてまさにそう。だったら高校生、10代の奴らでもいけるんじゃないかと、番組制作サイドもある程度の確信があったから始まったんだと思います。ここまでキャラの強い面々を輩出するとまでは思ってなかったかもしれないけど。2010年代のラッパー若年齢化の流れはここにも繋がってるんです。

渡辺:そこでK-九(現T-Pablow)が第1回と第4回の二度優勝。さらに、第5回はYZERRが優勝。そして、2015年から地上波のTV番組「ダンジョン」がスタートすると。



伊藤:テレビに出るということは、スキルはもちろんとして、興味を惹かせるためのバックグラウンドも必要だし、キャラも立ってないといけない。この頃から日本のヒップホップは、キャラ重視の傾向が強くなっていきましたよね。その是非は置いておくとして、パフォーマー/エンターテイナーとして、ただイケてる音楽だけを作っていればいいって時代じゃなくなった。

渡辺:私も「高ラ」を初めて観に行った時に、(ラッパーの)バックグラウンドを紹介する映像がめちゃくちゃ凝ってたことに驚いて。「こんだけチカラを入れてるんだ!」って(笑)。そこに私たちも感情移入しちゃって、どうしても応援しちゃう……。

A氏:映像で見てしまうと、普通のバトルとは(捉え方が)変わってくるでしょうね。

伊藤:機材が安くなったこともあり、映像も撮りやすくなって、YouTubeなどで気軽に配信できるようになったことで、それまでは雑誌の現地ルポとかでしか伝えることができなかったバックグラウンドが、3〜4分のMVで観れちゃうわけですよね。だからこそ、バックグラウンドやキャラクターがより重要になってくる。そういう時代になってきたのが、2013年前後じゃないかな。DJのふたりはバトルでDJとかはやってきたんですか?

TA:俺は多かったです、「THE罵倒」とか。



伊藤:「THE罵倒」はどちらかというと、2000年代中盤のMCバトルの名残が残ってるよね。バトルも大会によって多様化してますからね。

TA:昔のMCバトルは熱くなって喧嘩になるとか、地元の仲間が相手のことをステージから引き摺り下ろそうとしたりとかあった。今はそういうヒリヒリ感はまったくないし、別物として大きくなった感じがします。

伊藤:昔はバトル発端の揉め事とか当たり前だったけど、すっかりスポーツ化したよね。ラッパーにとってはラップバトルもインターネットと同じで、成り上がるためのツールという面があるじゃないですか。MCバトル自体は90年代の中〜後半からあったけど、キャリアとか知名度重視じゃなく、フリースタイルのスキル次第で誰でも有名になれる可能性があるから盛り上がってきた。そして、メディアに発信される機会が増えたことでラッパーはよりキャラ重視になり、それによってバトルがエンタメ化、スポーツ化していった。で、バトル/即興ラップっていうフォーマットがあればどんなスタイルでもいいとなって、さらに多様化が進んでいくと。

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