現場目線で振り返る、2010年代の日本語ラップシーン座談会

A氏:あと、SUMMITが設立されたのが2011年ですよね。

伊藤:SUMMITは、本人たちがやってることはヒップホップだけど、聴いてるリスナーたちの全員が、必ずしも彼らをヒップホップとして聴いてる訳でもないんじゃないですかね? ヒップホップなんだけど、そういった前提がなくても聴けるポップさもあるのが彼らの強みだと思う。

渡辺:J-POP的に聴いてるリスナーが多いんですかね?

伊藤:90年代とか2000年代は、大衆に受け入れられるヒップホップと言ったら、KREVAとかRIP SLYME的なアプローチにならざるを得なかったんですよ。キャッチー/ポップな曲調だったり、外見的なところだったり。Hillchrymeや童子-Tのようなアーティストがその象徴ですよね。そうじゃないと、ポップフィールドで売れるのは無理だとされていた風潮があった。今はそっちに寄せずに、自分たちが地で持ってるヒップホップ性を出しても、大衆が受け入れやすくなってる。その傾向を作ったのがSUMMITなのかはわからないけど、あのレーベルと所属アーティストたちがその扉を開いた部分は少なからずあると思いますよ。

渡辺:去年フジロックでPUNPEEのDJを聴いたんですが、お客さんが一番盛り上がるのはやっぱりご自身の曲。最初に(STUTSの)「夜を使いはたして」でワーッとお客さんが盛り上がって。

TA:おおー。

渡辺:でも、そのあとにキャムロンやモブ・ディープを掛けても、あまり反応がなくて……。PUNPEEって、こういう風に聴かれているんだっていうのを目の当たりにした感じがしました。

A氏:ここ数年のPUNPEEは、宇多田ヒカル加山雄三、「水曜日のダウンタウン」とか、そういうメジャー仕事もやってる一方で、「田中面舞踏会」のようにネット中心に盛り上がったムーブメントの象徴的存在でもあったわけじゃないですか。しかも、DOWN NORTH CAMP(※) のようなコアな界隈とも繋がっている。さっきのKOHHじゃないけど、両極端というか全方位で愛されるキャラクターですよね。誰も出ると思ってなかったアルバムも出て(笑)。

※ISSUGI、仙人掌、Mr.PUGによるユニット、MONJUなどが所属する謎多きクルー。



渡辺:世間一般的に、PUNPEEは2017年にデビューアルバムを出したばかりだということもあって、扱いが新人なんですよね。私たちからしたら10年以上シーンにいるヘッズでありアーティストでもあるんだけど、大局的に見るとまだ新人なんだ、というギャップを何となく感じていて。だからこそ、PUNPEEが今後どういうことをするのか非常に楽しみだし、いろんなリスナーの架け橋になってくれるんじゃないかなと勝手に期待を寄せています。

A氏:FRIDAYに載る男ですからね、なかなかいないですよ(笑)。


PUNPEEが満を持してリリースした、2017年の1stアルバム『MODERN TIMES』収録曲「Happy Meal」のMV

TA:「水曜日のダウンタウン」のオープニングでも、こち亀検証スペシャルみたいな回だと ZORN(※)の曲をサンプリングしたり、ヒップホップ的なこともやりながら(リスナーが)入りやすいようにしてますよね。

※旧ZONE THE DARKNESS。『THE罵倒』3連覇などバトルMCとして名を馳せる一方、音源では子を持つ親として等身大の日常をラップする独自の作風で、バトルシーンに留まらず支持される存在に。東京・葛飾区の出身で、こち亀検証スペシャルでは彼の曲「葛飾ラップソディー」が用いられた。

伊藤:USで言えばファレル・ウィリアムスのように、「ナードなのに不良からも認められるヤツ」みたいなポテンシャルがPUNPEEにはあると、登場時から感じてました。ただ、それはあくまでヒップホップ・シーン内に限った分析であって、ここまでマスにも通用したのは稀有な例だと思います。

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