逸脱する入稿 『ダークウェブ・アンダーグラウンド』完成までの道程

コンセプトを思いついたらそこに向かう道筋を這うだけです。まずはメインビジュアルの選定。一切の感情を抜きに偶発的に転写されたようなビジュアルとはどのようなものか、そう考えてみると先ほどまでと違い不思議とすぐに嵌り役の作家さんが頭に浮かびます。小林健太氏という写真家がいらっしゃるのですが、彼が作るビジュアルはスナップ写真をベースに原型が見えなくなる、あるいは別の姿が現れるまでデジタル加工を施した挑発的なもので、その偶発的に発現した危ういイメージをこの本のメインビジュアルに据えればもう、梅に鶯、柳に燕なんじゃないかと一人興奮しました。更にいえば、この場合は作品を撮り下ろしていただくよりも意味的関連性のない既発の作品を使用させてもらうほうがコンセプトにマッチします。そこでネット上を徘徊し、小林氏の作品を手当たり次第に集めます。

ラフを作るにあたって先に考えないといけないのが仕様、つまり本の素材、印刷や加工の工程です。世に億千万とある書物にはすべてそれぞれに異なる表情があり、一つひとつが予算や印刷事故と戦い印刷機の露と消えたデザイナーの生きた証なのです。想定していた仕様が出版社側の予算の問題で通らないということは非常によくあること、かつそこそこテンション下がることなので、ある程度ブックデザイン業に従事すると担当編集者の手土産の質や眼鏡の汚れなどから予算感を読み取り、即ハネされない程度の仕様を計算する能力が身につきます。今回の場合、担当方便氏の眼鏡を見る限り潤沢な予算があるとは思えないが米銭に事欠く程の低予算案件とも思えない。なので久々に凝った仕様も考えてみることにします。

この場合に大事なのが第一希望が弾かれても妥協できる第二希望、第三希望の廉価仕様を用意しておくことです。今回のカバーは第一希望を激ソリッドな金属光沢を放つアルミ蒸着紙を使用するプランにしました。これなら第二希望をコート紙に高輝度シルバーインキ、第三希望をコート紙に普通の銀インキと予算に応じてダウングレードしても大まかなイメージは変わらず、テンションはそこまで下がりません。火力をカバーに一極集中させるため、表紙を黒い板紙に銀インキ二度刷りニスなし(インキの定着が悪くなり、むき出しで読むと手がギラギラになって超かっこよくなる)、扉をキャストコート紙にマットニス(角度によっては文字が見える)、帯はマットコート紙に特色二色刷りと省エネ仕様に。

仕様が固まったところでラフ作成のフェーズに移行します。メインビジュアルは先述の小林氏の作品を使用、センターに置かず少し位置をずらす小細工でメカニカルエラーを演出します。テキスト用に無愛想な書体をベースにPhotoshopで加工、コピーを繰り返して劣化したようなエッジの丸みを作り、ザバッと撒いたようなイメージで並べます。文字の大きさに大小をつけず、全て同じ大きさで配置することで無機質感が倍アップ。そのかわり帯はメリハリ強めで人間感強めに。癖あり英文ロゴで無国籍感もプラスします。〈図案1〉


〈図案1〉

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