逸脱する入稿 『ダークウェブ・アンダーグラウンド』完成までの道程

世の中には原稿を読むデザイナーと読まないデザイナーが存在しており、読むデザイナーの中にもすべて読む個体、奇数ページのみ読む個体、重なった紙の束に手を添えるだけで大体の内容を把握する個体などが確認されています。私は若輩者なので大抵全部読むんですが、今回のは読んでも全然わからない。先程から繰り返されている「わからない」という言葉は内容を理解するかどうかではなく、本としての完成形を想像できるかということを意味しています。

タイトルが中々強いので、タイポグラフィでメインビジュアルを作るパターンを試みたんですが、いかんせん私の腕では凡庸な出来になる予感しかしない。画面に文字をざっと並べたところでファイルを閉じ一度顔面を床に触れさせます。そうなると何かしらダークウェブを連想させるような写真を撮影して表に立たせるパターンかとノートにラフを描き出しますが、これもまた負の既視感を醸し出すことが容易に予想され、この本にはふさわしくないと直感、声にならない叫びとともに倒れ込みます。本腰を入れる前に床に触れる能力、これもまた非常に重要です。これ以外にどういう方法があるんだよと、その頃弊社で流行っていたヘビーウェイトガスガンをバスバス連射しながら回転していたんですが、例の瞬間、つまり「Got To Get You Into My Life」のイントロが頭の中に鳴り響く瞬間は突然訪れます。

出力された原稿の1枚目をそのままカバー素材につかうのはどうかとスキャンした画像を画面に大きく配置してみると、表情のないWord素組の文字が意思の疎通を拒否しているかの様に映し出され、エウレカ感が全身を駆けました。有機性を極度に排除すればいいんじゃないか、つまり深層ウェブに接続された「鉛色の書物出力機」のようなものがあったとして、そのアウトプットボタンを押したとき排出口からガーッと無愛想に出てくるであろうソリッドな物体こそが、この本の姿なんじゃないかという天啓を得ます。人が作った形跡が見えない無機質な本体とカバーに、情報を過密に詰め込んだ警告色の帯を巻き付けてどうにか無理やり本に仕立てたような佇まい。ゴールが見えました。もうこうなれば9割は完成したも同然、不安なことは一つもなく、世界は美しい。

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