90年代に「ボヘミアン・ラプソディ」を再び世界で大ヒットさせた映画の裏話

サリヴァン:あれはオールナイトの撮影で、カリフォルニア州ウェスト・コビーナがイリノイ州オーロラの代わりだった。

ターゲセン:トレーラーの後ろに座って、歌いながらウェスト・コビーナ中をドライブしてまわったよ。

スフィーリス:私はいつもコロナとコビーナを間違えちゃう。

サリヴァン:夜間の撮影のときは、最初は絶好調でも、ある時点で「この時間にここにいるなんてマジかよ。まだ何時間もここだよな」と考え始めて、いきなり気力が落ちる。それが撮影の始まる直前だったりするんだ。ところが、あのシーンではその気落ちがこれ以上ないくらい効果的だった。だって僕は泥酔して座っているだけの役だから。

マイヤーズ:このシーンは、オペラパートの歌詞「I see a little silhouette-a of a man」そのままのミニオペラにするつもりだった。つまり、影が見えた男は僕たちの友だちで、彼を途中で拾って車に乗せて、「Let him go!」、「Let him go!」、「Let him go!」と一緒に歌い、彼が嘔吐する。それだけの内容だった。

サリヴァン:あのシーンは順番に撮影した。少なくとも僕が出演した部分はそうだった。彼らが僕を拾うところから始まってね。ガースの「吐きたくなったら、これに吐いて」と言ったのは……あれはダナのアドリブだと思う。彼は小さな紙コップをどこかで見つけて、いきなりあれをアドリブでやったのさ。

ダナ・カーヴィ(ガース・アルガー役):マイクも僕もやりたい放題できた。僕もガースのお決まりのギャグを頻繁に繰り広げた。「吐きたくなったら、これに吐いて」もその一つさ。そしたら、ペネロープが「それ、あと10秒速く言えたら残すわよ」って。

マイヤーズ:ダナは一緒に仕事した中でも最高のコメディアンで、一番ゆるいコメディアンだ。ゆるさが面白いってことを彼は絶対に忘れない。それに彼の目の中のキラキラは感染するんだよ。彼はふざけるのが好きなんだ。撮影の間中、二人で練りに練った複雑でクレージーなジョークを作っていた。

スフィーリス:カメラ・オペレーターがドイツ出身で、マイクは彼をイジって遊んでいたの。撮影時にガラスや窓に照明の光線反射が出ると、ダリングスプレーという反射を抑えるスプレーが必要になる。明るい照明の反射を軽減するのがこのスプレーよ。でも、マイクはいつもこれを「ダーリング・スプレー!」(訳注:ドイツの地名ダールDahlにingをつけたもの)と呼んでいて、あのシーンの撮影が終了したとき、マイクは彼が呼ぶところの「ダーリング・スプレー」をみんなに1缶ずつプレゼントしたの。

サリヴァン:僕たちは車に2〜3時間乗り続けたね。毎回、あの曲を最初から最後まで歌ったし、けたたましい歌の騒音だったよ。

スフィーリス:あのシーンを撮影する頃には、キャストが互いにかなり馴染んでいたわよ。それにあの曲、あれには非常に正確で一貫性のあるビートがあるの。だから、そのビートを見つけ出して、それに合わせてヘドバンするのはそれほど難しくない。3歳児でもできるはずよ。

ターゲセン:あの車の中で僕だけが本物のヘッドバンガーだ。本気でヘドバンしていたのは僕だけだったから。

スフィーリス:私の記憶が正しいなら、あのシーンは撮影が3分の2くらい終わったところでマイクの反抗が始まったというか……ありがちな面白くもない話なので、マイクと私の間に起きた諍いの詳細は端折るけど。とにかく、あのシーンでは何度もテイクを重ねたの。だって後部座席に3人、運転席と助手席には2人いるわけ。撮影しないといけないカットがたくさんあって、カメラを動かし続けるしかなかった。おかげで、彼らは何度も繰り返しヘドバンする羽目になったのよ。

マイヤーズ:ダナと僕はあのヘドバンのせいで首を痛めたんじゃないかって思っている。とにかく、撮影アングルの多さとテイクの多さったらなかったよ。あの雰囲気を出すためにあらゆる角度から撮影しないとダメだったんだ。

カーヴィ:あのとき、僕は36歳で、ヘドバンを4時間もやらされて死ぬかと思ったよ! 

スフィーリス:半分くらい終わったところで、マイクが「このシーンを編集するのに十分な映像は撮れたと思う。もう、首が痛くて死にそうだ」と言ったの。だから私は「まだ十分じゃないわ。まだ続けないと」と返したら、彼は「仕方ないな。じゃあ、鎮痛剤をくれ」だって。

サリヴァン:僕たち役者はシーンにのめり込むものさ。それが何時間も続くなんて思っていないから、最初から本気で演じるわけだよ。ところが、みんな、首が折れそうなくらい痛くなって、少し加減するようになった。最初の30分は楽しかったけど、その後は「これ、マジで痛いぞ」って。

ターゲセン:疲労だけじゃなくて、フットボール選手がよくなる外傷性脳損傷みたいな感じになっていたと思う。とはいえ、あのシーンを撮るためには仕方なかったよ!

サリヴァン:独特の仲間意識が生まれてきて、お互いを鼓舞しながら続けるのさ。ぶっちゃけ、あの大音量であの曲を流されたらやる気になっちゃうしね。

スフィーリス:マイクはけっこう冷静で、最後までやり続けてくれた。でも、彼らを説得するのはちょっと大変だったわ。どうやって説得したかというと、マイクが「首が痛いだけじゃなくて、もう十分撮影したと思う。ただ、これで本当に大丈夫なのかわからないし、本当に面白いのかもわからない」って言ったのね。そこで、私は「大丈夫、面白い。私が太鼓判を押すわ。最高のオープニングシーンになるから」って言ったのよ。

Translated by Miki Nakayama

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