90年代に「ボヘミアン・ラプソディ」を再び世界で大ヒットさせた映画の裏話

映画『ウェインズ・ワールド』のオープニングシーンでボヘミアン・ラプソディを熱唱する出演者たち

1972年のリリース時は大ヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」だったが、そのあとはしばらく世界的にも注目されることはなかった。90年代初頭、マイク・マイヤーズの映画『ウェインズ・ワールド』のワンシーンで「ボヘミアン・ラプソディ」が起用されるや否や、世界中で再びクイーン人気に火がついた。その歴史的なシーンと共に、出演者や制作関係者、そしてブライアン・メイが語る映画制作秘話を振り返る。

1975年にリリースされたクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」は風変わりな曲だった。大胆で、オペラ風で、テンポが変化する叙事詩的な大作で、まるで複数の楽曲を一つに融合させたようでもある。当時、クイーンの所属レコード会社は6分間の曲はラジオで流すのに長過ぎると判断し、絶対にヒットしないと言った。しかし、彼らの判断はすべて間違っていた。この曲はイギリスで第1位に輝き、アメリカでも第10位に喰い込んだ。ところが、90年代初頭までに「ボヘミアン・ラプソディ」は隠遁生活に入り、ラジオのクラシックロック局で時々流される程度で、表舞台へ登場することは滅多になかった。

状況が一変したのは1992年。マイク・マイヤーズが映画『ウェインズ・ワールド』のオープニングシーンに「ボヘミアン・ラプソディ」を大々的にフィーチャーし、人々の記憶に残る強烈な印象を残す。これはバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の同名のコントから流用したもので、この映画がきっかけとなり、この曲もクイーンも共に前代未聞の第二の黄金期を迎えるに至った。ウェイン・キャンベルが友人ガース・アルガーのACMペーサーに同乗し、持参したカセットをカーステレオに入れるという当時のありふれた行為で、「ボヘミアン・ラプソディ」はラジオ局で頻繁に流されるようになり、『ウェインズ・ワールド』公開の約3ヵ月前にバンドのヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーがAIDSで他界したにもかかわらず、アメリカのヒットチャートを駆け上り、第2位に浮上した。さらにMTVでもこの曲が定番ミュージックビデオとなり、曲だけでなくバンド自体も、若いリスナーたちに広く知られるようになったである。ご機嫌なこのシーンは、それ自体が時代を象徴するものとなり、1992年の初公開以来、幾度となくパロディ化され、コピーされ、今では人々を笑顔にする文化の試金石のような存在になっている。同映画のクリエイティヴ面を牽引したマイク・マイヤーズと、この一件によって恩恵を受けたクイーンのメンバーが『ウェインズ・ワールド』における「ボヘミアン・ラプソディ」登場の舞台裏を詳しく語ってくれた。



マイク・マイヤーズ(脚本、ウェインズ・ワールド役):僕が育ったのはカナダのオンタリオ州スカボローで、両親は二人ともイギリス人だった。1975年に家族と一緒にイギリスに行ったときにラジオで「ボヘミアン・ラプソディ」を聞いたんだ。みんながこの曲にとり憑かれたようになったね。僕、僕の兄弟、そして友だちの車。友達の車は淡青色のダッジ・ダート・スウィンガーで、片側にエルヴィス・プレスリーの形でシミになった嘔吐の跡があった。その車で「ボヘミアン・ラプソディ」を聞きながら、ドンバレー・パークウェイをドライヴしたものさ。それも、トロント市の境界を超える瞬間に、あのロックパートが始まるように、きっちり時間を計ってね。「ガリレオ!」は5回続くけど、僕が3回担当することになっていて、他の人の「ガリレオ!」を僕が歌ったり、他の人が僕の「ガリレオ!」を歌ったりすると、その後、必ずケンカになった。この光景はいつも僕のポケットに入っていたもので、ウェインズ・ワールドは僕の子供時代なんだよ。自分の経験を書いただけさ。

ペネロープ・スフィーリス(監督):私たち全員、あれが初めてのスタジオ作品だったわ。

マイヤーズ:あの作品では、大人になって、税金を払うみたいな社会人の生活を始める直前の、誰にでもある大人未満の時代の一コマと、その生命力を描いてみたいと思った。TV番組の視聴が地下室に限定されるのなら(訳注:アメリカの一軒家は地下にテレビ室があることが多い)、『ウェインズ・ワールド』は映画という形にして、世界中で観てもらいたかった。だから「ボヘミアン・ラプソディ」が出演者を紹介するのに最適だと思ったわけだ。

スフィーリス:私は変な選曲だと思ったわね。ヘドバン好きな青年がドライヴ中の車でヘドバンするときに、真っ先に選ぶ曲とは思えなかったから。

マイヤーズ:だから、僕は「ボヘミアン・ラプソディ」を使おうと必死に奮闘した。あの頃、世間はクイーンのことなんてすっかり忘れていたよ。(プロデューサー)のローン(・マイケルズ)はガンズ・アンド・ローゼスを推したんだ。曲名はもう覚えていないけど、あの頃、ガンズ・アンド・ローゼズの曲がチャートで1位になっていたからね。僕は「君の意見はもっともだ。それが利口なやり方だよ」と返事したけど、僕にはガンズ・アンド・ローゼスの曲をネタにしたジョークなんて一つもなかったんだよ。「ボヘミアン・ラプソディ」ならごまんとあった。この曲は本質は喜劇だからね。

Translated by Miki Nakayama

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