ハリウッドが生んだ変人、ジョン・マルコヴィッチの貴重なインタビュー

Netflixのオリジナルムービー『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー(原題:Velvet Buzzsaw)』に出演したジョン・マルコヴィッチ(Claudette Barius/Netflix)

謎多き伝説の俳優、ジョン・マルコヴィッチ。変人、狂人と言われるマルコヴィッチだが、共演者や関係者は彼を愛して止まない。自身の子ども時代や気まぐれな性格から“ジョン・マルコヴィッチ”であることについてまでを語った、9年間もお蔵入りしていたローリングストーン誌のインタヴューがついに日の目をみた。マルコヴィッチ・ワールドへようこそ。

今から9年前の2010年、ローリングストーン誌の依頼でジョン・マルコヴィッチにインタヴューするため、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏にある彼の自宅を訪れた。当時はちょうど、彼の出演した新作『RED/レッド(原題:RED)』(LSD中毒の元CIAエージェント役)と『セクレタリアト/奇跡のサラブレッド(原題:Secretariat)』(気難しい調教師役)の2本が公開される時期だった。両作品でマルコヴィッチは有名な変人を演じ、どちらもヒットした。しかしどういう訳か、同インタヴュー記事が公開されることはなかった。出版業界特有の気まぐれか、ローリングストーン誌の編集者による突飛な思いつきだろう。本記事は、改訂して公開されるのを暗い蔵の中でじっと待っていたのだ。

しかし、今日になってついに公開できることとなったのは、内容が改訂されたからではない。現在に至るまでの俳優の素晴らしいポートレートを表現するのに、内容の変更はほとんど必要ないことに気づいたからだ。彼はその後、多くの作品に出演している。ショウタイムで放送されたヘッジファンダー対司法を描いたテレビドラマ『ビリオンズ(原題:Billions)』で極悪非道なロシア人新興実業家を演じ、BBCで放送されその後Amazon Primeでも視聴可能となった『ABC殺人事件(原題:The ABC Murders)』では、アガサ・クリスティー作品ではお馴染みの探偵エルキュール・ポワロを演じた。またNetflixの『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー(原題:Velvet Buzzsaw)』では画家を演じ、2019年秋に封切り予定の『Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile』には、テッド・バンディの殺人事件の裁判を担当する判事役で出演している。さらに映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの盛衰を描いた、デヴィッド・マメット監督によるブラックコメディ『Bitter Wheat』を、ロンドンの舞台で上演すべく準備も進めている。

65歳になったマルコヴィッチは、ひと息つくような気配を全く見せない。自分を取り巻く環境は変化しているかもしれないが、マルコヴィッチは揺るぎないように見える。しなやかな常緑樹のように、どこでも常に彼らしい存在感を出す。ここに私が9年前に書いた彼のインタヴュー記事があるが、以上のような理由で内容は改訂されていない。当時の彼と今の彼は、ほとんど変わりがないのだ。もちろん米中西部で過ごした少年時代とは全く容姿が異なる。当時の彼は、体重が標準より30kgオーバーで“ふとっちょ”などと呼ばれることもあったという。靴に矯正具を付けて歩く彼はよく、スリムで格好良いスカーフを巻いたイタリア人のプレイボーイ“トニー”になりきることがあった。その後あらゆる役を演じることとなる彼の初めての演技経験といえる。

フランス郊外の閑静な雰囲気に囲まれた自宅の外で、ジョン・マルコヴィッチは遠くを見渡していた。遠くにかすかに見える丘の上には、偉大なマゾヒストだったマルキ・ド・サドがかつて管理し、今はピエール・カルダンの所有する美しい城がある。風が吹いて雲が動き始め、遠くの景色に陰がさす。マルコヴィッチは飾り気のない金属製の椅子に腰掛けて足を組み、コーヒーを啜っている。彼はミミズのように薄い唇をすぼめ、ペラペラとよくしゃべる。何ひとつ変わっていない。彼には、現在世界にアピールするものや、世界がどうなるだろうかという彼の意見を聞きたいと思った。彼はエレガントに両手を重ねて首を傾げ、まるで大学教授のような仕草で答えを探す。

草木の綿毛が舞い、彼の目が追う。タバコをつまみ上げて火をつける。ついに彼は、面白がって見下した態度を取る時によくやるように唇を動かし、ずっと頭の中で練ってきたことを口にする。彼自身や彼の性格に対するはっきりとした洞察と言えるだろう。簡潔かつ的を射て反論の余地もない、マルコヴィッチによる自己評価といえる。肩をすくめて彼は「全くわからない」と言う。しばらく考えて口にしたのがこれだけだ。彼は満々の笑みを浮かべる。そうしてまた彼は、とても満足げに遠くを見つめた。

出演した映画の多くでマルコヴィッチは、魅力がにじみ出る掴みどころのない人間や、素敵で恐ろしい役を演じてきた。どの役柄でも、性交後の疲労感とお世辞を含んだ脅し文句、極端に気味悪く元気のない様子、オリーブ色の目の表情や冷酷さを表現し、奇妙でこの世のものとは思えない印象を与える。ほとんど熱心な無益論者の態度だ。そして彼の頭蓋骨は、丸く膨らんだ頭頂部から顎へ向かって先細る大きく格好悪い球体で、両耳はダンボのように大きい。全体的には意外に印象深く稀に見る傑作といえるが、それは彼の生き様、特に彼の性格にも当てはまる。彼がかつて、ボウイナイフで男性を脅したことは有名な話だ。またある時は、注文したシャツの出来上がりが少々送れたことでテーラーに怒鳴り込んだりもした。さらに、バスが止まらなかったことに腹を立てて窓を叩き割ったこともある。そんな彼でも、共演者をはじめ周囲の人々に愛されている。「ただただ彼を敬愛している」と、マルコヴィッチの初出演映画作品『プレイス・イン・ザ・ハート(Places in the Heart)』(1984年)で共演したサリー・フィールドは言う。「彼は自分のルールブックにのみ従って演じている。私たちの多くが執着するようなことでも、彼は少しも気に掛けない。」

「彼との仕事は、私のキャリアの中でも貴重な経験だった」とダスティン・ホフマンは言う。ホフマンは、マルコヴィッチ初のブロードウェイ作品であるアーサー・ミラーによる『セールスマンの死(Death of a Salesman)』(1984年)で共演している。「オーディションで初めて会った時、彼はまるでホームレスのような身なりだった。サンダル履きで足がとても汚く、髪もボサボサだったように記憶している。ささやくような声で話し、とにかく見た目が酷かった。第一印象はそんな感じで、風変わりな男だ。私は唖然とした。当時はわからなかったが、彼は自分のキャリアに傷が付こうが成功しようが執着しないピュアなアーティストだ。それが彼にとって重要であり、彼が表現してきたことなんだ。」

Translated by Smokva Tokyo

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