ヴァンパイア・ウィークエンド最新作レビュー:穏やかなサウンドに隠れた反骨精神

その一方で、『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』はこれだけギターをフィーチャーしながら、ありがちなギターロックの体裁には全く当てはまらない作品だ。随所で聴こえてくるのは、フォークやカントリー、ブルーグラスを思わすメロディーやフレーズだったりする。そういったサウンドは、1st『ヴァンパイア・ウィークエンド』なら「M79」、2nd『コントラ』なら「Cousins」というふうに、彼らの過去作からも聴き取ることができるし、前作『モダン・ヴァンパイアズ〜』でも、エルヴィス・プレスリー的なヒルビリー要素も含むロックンロール「Diane Young」を披露していた。このような歩みを経て、最新作ではアメリカーナ志向がこれまでになく前面に出ている。

それに加えて、「Sunflower」などの曲から僕が思い浮かべたのは、カエターノ・ヴェローゾやムタンチスといった、ブラジルのトロピカリア勢にも通じる異形のサイケデリアだった。




そしてもう一つ、本作はデビュー時のトレードマークだったアフリカ音楽の影響を、ここにきて再び強く感じさせるアルバムでもある。

そもそもVWは、ヒップホップやR&Bを通過した感性を持ち合わせてはいるが、ブルースやソウル、ジャズといった「黒い」イメージが希薄なバンドだった。いかにも白人然とした生い立ちとファッションの4人組が、アフロアメリカンを飛び越え、一気にアフリカ音楽へアプローチしたのが、デビュー当初に話題をさらった要因でもある。

1st収録の「Cape Cod Kwassa Kwassa」では、アフロビートというより、リンガラやハイライフを想起させるサウンドを奏でていた。アフリカのポップスを経由したギターサウンドに対する憧憬は、ポール・サイモンとも多く比較されてきたわけだが、『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』収録の「Married in a Gold Rush」や「This Life」におけるギターにも同様のエッセンスを感じるだろう。その流れで、西アフリカ発祥のパームワイン・ミュージックっぽく聴こえる「Rich Man」の和んだ旋律に浸っていたら、(同ジャンルの代表格である)S.E.ロジーのレコードが実際にサンプリングされていたので驚いてしまった。




「Rich Man」でサンプリングされた、S.E.ロジー「Please Go Easy With Me」

音楽評論家の高橋健太郎は、『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』掲載のコラムで、「いわゆるワールド系のジャンルの中では、アフリカン・ミュージックほどエレキ・ギターとの親和性が高い音楽はないと思う」と記していた。VWの初期作を聴き返すと、彼らはアフロビートのグルーヴ感よりも、アフロポップのギターのフレーズや音色に惹かれていたことが容易に聴きとれる。そう考えると、ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンのようなブルース経由のロックギターとも、オルタナ以降のディストーション・サウンドとも異なる、時代にふさわしいギターミュージックの可能性を、彼らはずっと探してきたのかもしれない。

そうやって色彩豊かなギターサウンドを形成しつつ、歌とギター、ピアノ、ベース、ドラム、パーカッションなどの楽器が入れ替わりながら、時に重なったり、バトンタッチするように切り替わったりしている。そんな本作ではアコースティック・ピアノとベースの役割がかなり大きくなっている印象だ。




ピアノはギターと同じような扱いで、旋律を奏でるもう一つの音色として、オーガニックな質感を生み出すことに貢献している。歌やベースは饒舌ながらも、ブルーグラスやショーロのような旋律のレイヤーが重なるのもあり、情感は全体的に抑えめ。その分だけ、楽曲に軽さや爽やかさが宿っている。

そして、これまでの作品と大きく一線を画しているのがベースのサウンドだ。ベーシストのクレジットがないので、(オクターバーを使った)ギターもしくはシンセサイザーを使ってベースラインを奏でているのかもしれないが、本作では低音部分がかなり重要な役割を果たしている。

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