気候変動がメンタルヘルスに与える影響、米国内のケースをレポート

気候変動への不安は比較的最近みられるようになった現象だが、懸念は広がっている。12月に行われたイェール大学の調査によれば、アメリカ国民の70パーセント近くが気候変動を「心配している」と回答、29パーセントが「非常に心配している」と答えた――6カ月前の調査から8ポイント増加――さらに「なすすべがない」と感じている人は51パーセントにのぼった。「歴史研究科は、これまでにも大勢の人々が非常に困難かつ激動の時代に直面してきたというでしょう」と言うのは、ニューヨーク州イサカ付近で診療所を営むCPAのジャネット・ルイス医師。「ですが、人類がこのような危機に直面したことはいまだかつてありません」

死別者を支援する非営利自助グループGood Grief Networkでは2016年、環境不安障害や気候鬱に特化した10段階プログラムをスタートした。3月にはイギリスでbirthstriker(出産ストライキ)の集団が、現在の地球環境で子育てをするのは不適切だとの懸念から、出産拒否を宣言した。クーパー医師の患者らも我が子の安全を危惧している。「ある患者は、どこかへ逃げ出したがっていました。でも現実には、いま起きていることから逃れられる場所などないのです」

おそらく、気候不安障害対策に関してもっとも大きな問題は、人々が抱く不安が現実のものだということだ。「不安障害の治療ではたいてい、医師は非現実的な不安を抱える患者を治療します」とルイス医師。「今回に関しては我々医師も同じ立場です」 彼女とクーパー医師が言うには、こうしたケースではとくに患者の感情を肯定することが重要で、心理療法士自身も気候変動の現実に向き合うことが大事だという。 「そこには『みんな同じ状況なんだ』という共通意識が生まれます」とクーパー医師。「なんとも物悲しいですが」

ルイス医師によれば、気候不安障害に悩む人々に手を差し伸べることは、失ったものに対する悲しみを後押しすること――生態系や、うしなわれた社会の未来――そして、自分たちが激動の時代に突入しつつあることを認めることでもあるという。「私たちは未知の世界へ向かっています。だからこそ、その過程で自分たちを守らなくてはならない。そしてほんの少し、自分に余裕を与えてやる」と医師は言う。「受け入れ難い情報を、全部一度に処理するなんてできません」


プエルトリコのハリケーン・マリアで30万もの人々が家を失った。嵐で家を失い、現在フロリダで暮らすプエルトリコの人々は、島に残った人々よりもかなり高い確率でPTSD(外傷後ストレス障害)を発症するという。(Photo by AP/REX/Shutterstock)

Translated by Akiko Kato

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