気鋭のアーティスト、SIRUPが支持される理由「目線をお客さんと合わせる」

SIRUP(Photo by Masato Moriyama 衣装協力:Levi’s®)



満腹になったあと、事務所のスペースでひと休み。スマホでなにかをチェックしたり、音楽を聴いたり、マネージャーと仕事の話をしたり、大阪人気質を発揮してスタッフとこれでもかとボケを畳み掛けるような冗談を言い合ったり。そして本番の約1時間半前になった頃、マネージャーとともに渋谷WWW Xへ向かう。

会場に入ると、出番の30分前まで、お客さんにまぎれてフロアで踊っている。そしてステージに呼ばれる直前まで、楽屋でサポートメンバーやYonYonとしゃべっている。YonYonはソウル生まれ東京育ちのDJ / クリエイターで、この日のオープニングDJを務めていた。SIRUPとは、韓国の音楽プロデューサー・2xxxも交えて楽曲“Mirror(選択)”を昨年7月にリリースしている。


2月28日、サポートメンバーと、楽屋にて。左から井上惇志(Key)、SIRUP、熊井吾郎(MPC Player)。(Photo by Yukako Yajima)


2月28日、YonYonと2ショット。(Photo by Yukako Yajima)

「YonYonは、本当にすごい人やと思っています。一人で突き進んで、時間がかかっても絶対に目標を実行するんですよ。グローバルな意識を持ちながら、DJも、自分で歌うことも、イベント企画も、日本と韓国をつなぐプロジェクトも、ラジオもやる。自分が目標としているものを、一人で戦いながらやるんです。本当は、もっと頼ってもらってもいいねんけど、って僕は思ってるんですけどね(笑)。今やりたいと思っていることとか、音楽カルチャーの理想とか、そういう意識が一緒で。もっと日本やアジアのイケてる音楽を世界水準的に広げたい。僕自身も、一緒にやりたいプロデューサーやアーティストが海外に多くて、そこに行くための努力の方法はまだまだいっぱいあるなと思っています」

そういった真剣な言葉を語りながらも、本番直前の楽屋での過ごし方を見ていると、「この方、もうすぐ本番なんだよな?」と疑ってしまいたくなった。SIRUPはステージに上がるその瞬間まで、なにも変わらない様子だったから。緊張している様子はまったく見せず、集中力を高める精神統一的な作業や声のウォーミングアップなども一切していない。あえて言うなら、ハンバーガーを食べている瞬間も、事務所でスタッフと冗談を言っている瞬間も、楽屋でミュージシャン仲間と話している瞬間も、ステージ上で歌う瞬間も、すべてを同一線上に置いて過ごすことを彼は意識的にやっているようだった。

「自然体な存在のほうが、自分の好きなアーティストの理想像に近いんですよね。リリックがいいなと思うのも、リアルな言葉で表現されているヒップホップのものが多いですし。なので5年前くらいから、ステージの上で『自分を出す』ということを考えるようになりました。演じることで生まれる説得力もあると思うんですけど、演じてしまうとお客さんに伝わらないなと思うことが、僕としては多くて。嘘をつかないほうが自分やなって思う。自然体でやれるようになってから緊張しなくなったというもありますし、単純に自分を信じているし、ステージの上にいる仲間も信じているので、ライブで緊張する必要がなくなったかなと思います」

井上惇志(Key)と熊井吾郎(MPC Player)の二人とともにステージに上がったSIRUPは、楽屋での姿とほとんど変わらなかった。MCのトーンも、楽屋とほぼ変わらない。ひとつだけ違うのは、今は目の前に大勢の人たちがいるということ。ハンバーガーショップでは私と、事務所ではスタッフたちと、楽屋ではYonYonやサポートメンバーと、同じ空間にいる人たちと一緒に楽しく過ごすためにコミュニケーションをしていたSIRUPが、その姿勢のまま、今は「音楽」という手段を用いて多くの人と一緒に楽しもうとしている。

SIRUPのステージ上での振る舞いを表現するには、「楽しませよう」より「楽しもう」のほうが、言葉として合っている気がする。アーティストだからといって、フロアよりも高いところに立っているからといって、自分の立場が上だなんてことは一切思っていなくて、お客さんと同じところに立って、同じ目線で、一緒に音楽を楽しもうよ、という姿勢だけが見てとれる。

「同じ目線になった状態から、みんなでアゲていくのが大事で。アーティストそれぞれに合うベストなやり方があると思うんですけど、僕は絶対に、目線を合わせていくのが大事やなと思っています。僕はミュージシャンとしての自分の才能は信じていますけど、人間としては本当に普通のやつなんで(笑)、『そういう感情、わかるなあ』っていう日常的な感情を、攻めたサウンドに乗せられるシンガーになれたらいいなと常に思っていて。一行でも長々と説明されても伝わらないような感情を、音楽で表現できたらいいなと思う。だからライブでも、目線が(お客さんと)近いのかな」


『SIRUP EP2 Release One man Live』にて(Photo by leo youlagi)

SIRUP自身が肩の力を抜いて「Synapse」「Maybe」「LOOP」「SWIM」「Do Well」の5曲を歌っていたが、フロアにいる人たちも身体に力を入れすぎることなく、とにかく自然とその場の音と雰囲気に身を委ねているようだった。この日は、モデルやインフルエンサー、関係者などが招かれたクローズドのイベントだったが、SIRUPはその場にいた人たちのアテンションを確実に掴んでいき、曲を重ねるごとに身体を揺らす人の数は増え、フロアのウェーブはどんどんと広がっていた。

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