Spotify「偽アーティスト」のストリーミングが横行 プレイリストに潜む各社の策略

その理由は、Spotifyの印税計算は按分ベースに起因する。以前ローリングストーン誌上で説明したが、「按分」とは、企業が提供するプラットフォームでのストリーミング全体に占めるアーティストごとのストリーミング割合で、プラットフォーム上で企業が得た全収益を割るという計算方法だ。ここで注目すべき点は以下のことだ。「偽アーティスト」に支払われる印税金額が契約書を交わしている「実在アーティスト」よりも低いと仮定すると、これらの楽曲を意図的にプレイリストに含むことでSpotifyは偽アーティストの楽曲を毎月一定の割合でストリーミング総数に加算することが可能だ。すると最終的にはSpotifyが支払う印税額が低く抑えられて、Spotifyが利益を得ることになる。以前ヴァラエティ誌に掲載された元Spotify関係者の発言に、Spotifyが意図的に行っている企業戦略がこれだと書かれていた。つまり「メジャーレーベルへ支払う印税額を抑えることが内部の戦略だ」と。

MBW記事が発表されると、Spotifyの経済活動における「偽アーティスト」の重要性を否定する人が出てきた。彼らは「これらのアーティストのストリーミング総数はSpotifyの純利益に重大な影響を与えるほど大きくない」と断言した。Spotifyプラットフォームに存在する代表格として、2017年にMBWが公表した「偽アーティスト」50組の再生回数の総数は、当時でも約5億2000万回だったというのに。

その後どうなったかというと、最初のリポートから約2年を経た現在、例の「偽アーティスト」50組の人気は上昇しており、現在までの再生回数の総数は28億5000万回となっている。下記の10アーティストのSpotifyでの累積再生回数は合計10億回を上回っている(約12億2000万回)。

・Ana Olgica:再生回数1億5400万回、月間リスナー152万人
・Charles Bolt:再生回数1億4300万回、月間リスナー185万人
・Samuel Lindon:再生回数1億4500万回、月間リスナー155万人
・Aaron Lansing:再生回数1億2100万回、月間リスナー162万人
・Enno Aare:再生回数1億2000万回、月間リスナー115万人
・Piotr Miteska:再生回数1億1500万回、月間リスナー147万人
・They Dream By Day:再生回数1億800万回、月間リスナー124万人
・Lo Mimieux:再生回数1億700万回、月間リスナー128万人
・Karin Borg:再生回数1億400万回、月間リスナー98万7000人
・Jozef Gatysik:再生回数9880万回、月間リスナー96万6000人

上記の数字は実際の総数よりも低くなっている。アーティストごとに上位10曲のストリーミングデータしか表示しないSpotifyの一般的なアーティスト・インフォメーションから得たデータであるためだ(ちなみに上記のアーティストがSpotifyで公開している楽曲は押し並べて6曲以下である)。ここで忘れないでほしい重大な点は、上記の異なる名義で公表されている楽曲がすべて一人の人間によって作られ、演奏されている可能性だ。その意味において、この「偽アーティスト」人気の非道さは、Spotifyでストリーミングしている全曲の累積再生回数が12億2000万回を下回る、実在の人気アーティストがビヨンセ、ジョン・レジェンド、ワン・ダイレクション、チャイルディッシュ・ガンビーノ、ロード、マーク・ミルという事実でご理解いただけるであろう。

Translated by Miki Nakayama

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