2019年のホープ、miletが一人にこだわる理由「孤独を知らない音楽は信用できない」

―初めて自分の意思で選び取った音楽というと、どの辺が思い当たります?

両親がクラシック好きで、小さい頃からいつも流れている環境で育ったんですけど、自分から聴くようになったのロックが最初だと思います。小学生のときにお兄ちゃんから貰ったiPodに、シガー・ロスやビョークといったポストロック系の音楽が入っていて。クラシックとポストロックって重なるところが多いじゃないですか。弦が使われていたり、壮大な感じとか。そこが取っ付きやすかったんですよね。

―ああ、わかります。

それまでバンド系の音楽をほぼ聴いてこなかったんですけど、シガー・ロスのギターやドラムスの音を通過したことで、ロック・ミュージックも受け入れられるようになって。そのあと、めちゃくちゃ好きになったのがクーラ・シェイカーでした。

―他にもロックはたくさんあるなかで、クーラ・シェイカーに魅了された経緯がとても気になります(笑)。

それこそラジオで出会って、とにかくツボだったんですよ。最初に出会った曲が「ヘイ・デュード」で、あの曲が入っている『K』(1996年)は私が生まれる前に出たアルバムですけど、それからずっと大好きで聴きまくってますね。インド音楽を取り入れているのも新鮮だし、音は激しいけどメロディアスでドラマチックだったりするところに惹かれて。私の場合は、クーラ・シェイカーのおかげでビートルズと出会い、そこからオアシスやブラーのようなUK系を聴くようになった感じです。



―さっき話してもらったmiletさんの性格や生い立ちと、ロックの音楽性がフィットした部分もあるんですかね?

あると思います。自分はそんなに積極的ではないから、口には出せないけど溜め込んでることがいろいろあって。ロックの爆発的なサウンドって、そういう怒りや不満をぶつけられるじゃないですか。自分の考えを代弁してくれる、一緒に叫んでくれる音楽だし、聴くことでストレス発散にもなったのかなと。

―そういう要素って、自分が作りたい音楽と重なる部分もあります?

いや、自分では怒りを怒りのまま音楽にすることはしないですね。私の書く曲では、憂鬱な感じを表現することが多いんですけど、そのときもまずは憂鬱な気持ちを自分のなかで整理するんですよ。そのまま出そうとすると形がいびつになって、音楽としてまとまりがないものになりそうなので。憂鬱というものを音楽で表現するために、音楽の型にはめ直して作るというか。そのために、自分は何に対して憂鬱さを抱いていたのかとか、一度しっかり考え直すんです。そういう作業があいだに挟まる感じですね。

―思春期の頃は憂鬱になることが多かったみたいですけど、最近もそういう気分になることはよくあるんですか?

結構ありますね。それこそ、曲作りはもちろん楽しいんですけど、自分自身としっかり向き合う作業でもあるわけで。そうなると、今まで自分が疎かにしてきたこと、怠惰に過ごしてきた日々とも向き合わなければいけない。そんな自分を見ていると憂鬱にもなりますよね(苦笑)。

―過去に対して後悔することが多い?

自分の過去を否定するつもりはないんですけど、どれだけ歌にしても、嫌なものは嫌なものとして残るんですよ。嫌なことを歌にしたから全部スッキリというわけではなくて、私のなかではそのままの形で残っているし、それを思い出す作業っていうのは決して楽ではなくて。当時の匂いや見たもの、音とか全部クリアに残っているタイプなので。それを追体験するのは辛いですね。

―自分で歌おう、曲を作ろうと決心したタイミングはいつ頃だったんですか?

いわゆる決心はしてこなかったと思うんですよね。自分が歌うようになったきっかけも、友達が聴いてくれて「いいね」と言ってくれたからだし、今回の「Wonderland」という曲も映画に引き出されて作ったものなので。そういったことに導かれるように歌を作ってきたので、自分で「よしやろう!」って音楽に向き合うというよりは、聴いてくれる人がいるから歌う、という感覚に近いです。

―過去のインタビューで、落ち込んでる友人の前でカバー曲を披露したら、その子がすごく感動して、そこからシンガーを志すようになったと話してましたよね(ナタリーに掲載)。そのときは誰の曲を歌ったんですか?

ジェシー・Jの「Price Tag」ですね。その子を励まそうという気はなくて、そのときラジオでよく流れてた曲だし、個人的に歌いやすいというのもあって、そんなに上手くないギターを弾きながら歌ってみたんです。



―同じように、自分が音楽に救われた瞬間ってありますか?

もともとフルートを習っていたんですけど、パガニーニの「カンタービレ」という曲がすごく好きで。カンタービレも「歌うように」という意味だし、明るく聴こえる曲なんですけど、自分で吹くとその音に導かれて、今までの人生を思い出すような感覚になるんですよね。私が落ち込んでる時にかけてくれた家族の言葉だったり、自分の人生を励ましてくれた人や言葉が次々と思い出されて。だから、自分で演奏すると感極まりそうになるし、今でも聴くとパワーをもらえる曲ですね。

―こうやって話を聞いていると、miletさんは作っている音楽と同じくらい、ご自身もエモーショナルな方なんだなって思わずにいられないです(笑)。

そうなんですよ。あとは情緒不安定です。すぐに泣くし(笑)。

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