アジカン後藤正文と妹沢奈美が語る、ヴァンパイア・ウィークエンド最新作の全容

左から妹沢奈美、後藤正文(Photo by Kayoko Yamamoto)

3作連続の全米アルバム・チャート1位を達成した、ヴァンパイア・ウィークエンドの6年ぶり復活作『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』。5月15日(水)にリリースされるの日本盤発売に先駆け、さる4月25日(木)にSony Music Studiosで、同作の先行試聴会と、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とライターの妹沢奈美によるトークイベントが開催された。新作のサウンドやエズラ・クーニグ(Vo,G)へのインタビューについてなど、盛りだくさんの内容となったトークの模様をお届けする。


Photo by Kayoko Yamamoto

後藤:皆さん大きいスピーカーで聴いたんですよね? いいですね。

妹沢:いいですね。皆さん、お顔が笑顔だから良かった。そもそも後藤さんがヴァンパイア・ウィークエンドを最初に知ったきっかけは?

後藤:当時ブルックリンのブームというか、ニューヨークのインディー・ロックがめちゃくちゃ盛り上がったとき、ヴァンパイア・ウィークエンドが出てきたんで、楽しく聴かせて頂きました。あの時、僕らも「ニューヨークだ!」って、『マジックディスク』(2010年)っていうアルバムをニューヨークで録音しましたからね。一応、ニューヨークのインディーロックになりたいと思って、作ったんです。

妹沢:なりたいと思って(笑)。色々良いのが出て来てた時代ですね、あの頃は。

後藤:そうですね。ポップなモードに変わりつつあったというか、そういう空気になってきていた。2000年代って、レディオヘッドの『キッドA』で幕開けしたから、2000年代前半はみんなトム・ヨーク・ワナビーじゃないけど、ちょっと憂鬱な時代が続いて。でも段々カラフルな音楽が出てきて、ヴァンパイア・ウィークエンドとかアンサンブルがすごくカラフルですよね。だから、新しい時代が始まるんだと感じました。


ヴァンパイア・ウィークエンドの2008年作『ヴァンパイア・ウィークエンド』収録曲「Cape Cod Kwassa Kwassa」

妹沢:まさしく。私はたまたま取材でニューヨークに行った際、『SPIN』という雑誌に、「期待の新人」みたいな感じでアルバム・デビュー前の彼らの記事が載ってたんですね。その写真を見て、あ、なんて神々しいんだろう、と。

後藤:(笑)佇まいが良かったってこと?

妹沢:そう。それでよくよく読むと、「僕たちは既存のロックイズム的なことは絶対やりたくない」と。これまでロックバンドがやってきたことを全部やらないことだけがルールだ、と。

後藤:そうですね。当時からロックのやり方じゃなく別の、例えばカリブとかの民族音楽というか、フィーリングをいっぱい入れてましたね。他のバンド、例えばダーティー・プロジェクターズとかも、多分ブルガリアとかのコーラスワークとか勉強してやったりとか。新しいやり方でロックを更新しようとしてましたね。

妹沢:確かに。ヴァンパイア・ウィークエンドのこれはすごいと特に思ったところってありましたか?

後藤:フィーリングがいいなと思いました。新しいサウンド、フレッシュな音っていうか。それがインディー・ロックっていうところから出て来てるところも良くて。僕らが90年代に聴いてたロックと、ちょっとタッチが違う。例えばギターがほとんど歪まず、クリーントーンだったりとかね。あと、もうちょっと複雑なリズムで、「ドーン、パーン、ドドンパーン!」じゃなく、ちょっと跳ねたビートだったり。アメリカのロックのビートじゃなくて、もう少し色んな国の、民族的なビートとかをやってるみたいでしたね。デヴィッド・バーンとかがやってたことを、ダンサブルに、フレッシュに、また違う地域を参照しながらってやったような感じ、っていうか。


Photo by Kayoko Yamamoto

妹沢:うんうん。そしてこの4枚目のアルバム(『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』)のサウンドを、後藤さんはどう聞かれましたか?

後藤:サウンド的にはものすごく変わりましたね。上から下までめちゃくちゃ広がった。特にボトム。低音がすごく低いところまで沈み込んでいて、サウンドがアップデートされてる。ここ何年かでアメリカのポップミュージックの音が変わったんですけど、それに対応したものが出て来てる。逆に、2013年の前作を一緒に並べて聴くと「あれ?」と。スカスカに聴こえる、っていう。

妹沢:今日聴かれた皆さんも、驚かれたんじゃないんですか? (前作の)『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』と、だいぶ音が違っていて。

後藤:そうなんです。あのアルバムも当時は最先端だったんですけど、ここ何年かで本当に音が変わったから。今回のアルバムは、例えばビリー・アイリッシュとかと並んでも、いいねと思ってもらえるような音の構造を目指してるような。それが当たり前のルールとして向こうのエンジニアとか、ミュージシャンは共有してるんじゃないかなと思いますね。

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