ゲイカップルが創業者、音楽レーベル「ワックス・トラックス!」誕生秘話

1975年、デンバーのレコード店の前に立つワックス・トラックス!レコーズ創業者のジム・ナッシュとダニー・フレッシャー。(Courtesy of Wax Trax!)

インダストリアル・ミュージックのパイオニア的存在であり、ミニストリー、KMFDM、マイ・ライフ・ウィズ・ザ・スリル・キル・カルトらを輩出した音楽レーベル、ワックス・トラックス!レコーズ。同レーベルの誕生秘話を描いたドキュメンタリー映画『Industrial Accident: The Story of Wax Trax! Records(原題)』がある。

レーベルの創業者はダニー・フレッシャーとジム・ナッシュだ。フレッシャーは2010年に肺炎によって他界、ナッシュは1995年にエイズで他界している。ドキュメンタリーは2人の恋愛関係にフォーカスするところから始まり(ナッシュは最終的に別の女性と結婚して2人の関係は終わる)、コロラド州デンバーにワックス・トラックスのレコード店を開くまでの経緯を描いている。



70年代後半にシカゴに拠点を移したのち、彼らはレーベルを立ち上げて、ストライク・アンダー、ミニストリー(ドラァグクイーンのディヴァインも)といった地元のアーティストの作品をリリースし、インダストリアル・ミュージックの礎を築いていった。証言するのは、スティーヴ・アルビニ、ミニトリーのアル・ジュールゲンセン、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー、そしてジェロ・ビアフラ、デイヴ・グロール、イアン・マッケイなど。

監督したジュリア・ナッシュ(ジム・ナッシュの娘)は「95分間の作品を要約するのは難しい。それに、この一つの作品の中に、この作品と同じくらい濃い他のストーリーが7つくらい存在する」と言う。

子どもの頃のジュリアにとって、レコード店とレーベルの事務所は2つ目の我が家だった。大きくなって「他の音楽」に興味を持つようになると、ミニストリーのアルやスリル・キル・カルトのフランク・ナーディエロを兄のように慕うようになっていた。「フランクとはほとんど毎日、地元のダイナーに一緒に行ってランチしていた」とジュリア。「彼は『ロッカサイズ』の仕方、つまり音楽をロックするためのエクササイズを教えてくれたわよ。アルは、本当に、とても優しい人なの。私の最初の車は彼からもらったもので、1972年のレモン色のコンバーチブルのカルマンギア(フォルクスワーゲン)だった。父は私が母と一緒に住んでいたカンザスシティまでこの車を運転してきて、自分の手で黒いペンキで車体を塗り直してくれた。実は、この車のボンネットには父がスプレイペイントで描いた巨大なおっぱいがあったの。それも黒のペンキで塗りつぶしたのだけど、このおっぱいが若干透けて見えていて、そんな車で高校に通うのは本当に楽しかったわね」と、彼女は笑う。


1983年、シカゴのレコード店(Courtesy of Wax Trax!)

この作品の脚本を手がけたジュリアの夫、スキリコーンが語る。「思うに、ワックス・トラックスは素晴らしいバンドを輩出したレコード・レーベル以上のものだったと、かつての我々は気付いていなかった。異なる文化が交わる接点のような存在だった。当時の流行や文化の固定概念と一線を画す、あるコミュニティを代表するパイオニア的レーベルだったんだ。それはダニー・フレッシャーとジム・ナッシュがゲイカップルだったという事実が示してる」

ジュリアは昨年の春からこの映画の上映会を開始し、最近になって同作のサウンドトラックのリリースを発表した。また、上映会とミニストリーのパフォーマンスを併せて行うイベントも開催。ブルックリンで行われた同イベントには黒い洋服を着た一群が集まったが、ジュリアは多くの人にこの作品を観てもらう機会を得てうれしいと語る。「この作品は、当時のたくさんの困難や抵抗に負けずに、周囲の雑音に耳を貸すことなく、信じることをやり遂げた2人の男のラブストーリーで、観た人たちがそれに気づく姿をこの目で確認できるのは素晴らしいことだ」と。

Translated by Miki Nakayama

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