ビッグ・シーフに幻想的な傑作をもたらした、地球外生命体との知られざる物語

─曲作りは、いつもどのように行なっているのでしょうか。

エイドリアン:ほとんどの曲は私がギターで作り始めているわ。まずはメロディが浮かんで、歌詞はギターを弾きながらインスピレーションが降りてくるのをひたすら待つ。歌っていると自然に湧き出てくるので、それを書き留めてる。私にとって、曲作りは自然なことなのよ。一旦曲が完成したらバンドに聴いてもらって、みんなで演奏してみるの。

─バンドとしての1stアルバム『Masterpiece』(2016年)はサドル・クリークからのリリースでした。かなりローファイな手触りでしたよね。

エイドリアン:あのアルバムは自宅レコーディングで、ジェームズがエンジニアとプロデュースを担当している。翌年に2ndアルバム『Capacity』をリリースして、以来ずっと放浪生活をしているみたいなものね(笑)。





─最新作『U.F.O.F.』は、4ADへ移籍してのリリースとなります。

エイドリアン:ちょうどいいタイミングが来たと思ったの。4ADのスタッフはみんないい人たちばかりだし、繋がりも深い。単純に移籍するなら今だと思ったし、レーベルのスタッフを慕っているから自然なことだったわね。アルバムのレコーディングもとても自然な流れでできたし。

もちろん、サドル・クリークとはこれまでの歴史があったから、移籍の決断は簡単なものではなかった。ただサドル・クリークの関係も、4ADとの関係もポジティブなものだから、「プラスの状況からプラスの状況に進んだ」ということよね。これからもっと海外でライブをしていきたいし、いい変化を期待しているわ。

─作風も、これまでのアルバムとかなり趣が違いますよね。ソングライティングのプロセスにも何か変化がありましたか?

エイドリアン:これまでの曲作りは、「降りてくる」感じというか。さっき言ったように、ギターを弾きながら出てくるままに言葉を並べて歌詞にしていくやり方が多かったのだけど、今回は“Open Dessert”を始め、いくつかの曲はメンバーみんなで曲を固めた後に、歌詞を熟考する必要があった。というのも、それらの曲は、出来た時点でどんなメッセージを伝えるべきか、よく分からなかったの。なので、色々な言葉を紙に書いて、それを床に並べてそこから詩を作っていくというやり方をしてみた。これは初めての試みだったけど、面白かったわ。

一度、居心地のいいところから脱して、今までとは違うやり方にも挑戦してみなきゃという気持ちもあったのね。上手くいかないかも知れないけど、自分が納得していない楽曲をアルバムに入れたくないし。失敗したら「いつもとは違うやり方の瞑想を試してみた」と思えばいいやって(笑)。でも実際にやってみたら、出来上がった歌詞もとっても気に入ったわ。



─ボーカルを含む、すべての演奏をワンテイクでレコーディングしたというのは本当ですか?

エイドリアン:「ワンテイク」というわけではなかったけど、今回はすべての楽曲を、パート別に録っていくのではなくバンドで「一発録り」を行なってる。全員で4、5回演奏した中から、一番いいテイクをセレクトした。曲によっては2テイクの中から選んだものもあったし、レコーディングの後のエディットはほとんどしていない。「ワンテイク」ではなく、バンド全員での「一発録り」と、その後の編集作業を最小限にする、というところにこだわったわけ。

─なるほど。『U.F.O.F.』の中では、あなたのソロ・アルバム『abysskiss』(2018年)から2曲、「From」と「Terminal Paradise」をセルフ・カヴァーしていますね。

エイドリアン:最初にレコーディングしたのがこの2曲だった。他のソロ曲と比べても、私の心に一番近いものだったから、もう一度バンドでもやってみたい気持ちがあったの。アコースティック・ギターの繊細さを活かした、オリジナルに近いアレンジでね。それでも全く一緒というわけじゃなくて、今回のヴァージョンは世界観に広がりが出たところがとっても気に入ってる。ソロ・ヴァージョンのコンテクストも良かったし、それぞれ別の魅力を出せたと思うわ。



─本当に。『abysskiss』も素晴らしいアルバムでしたよね。

エイドリアン:私はいつも、楽曲をドキュメンタリーのように自然な形で作りたいと思っているの。特に『abysskiss』は、すべてのプロセスを1週間で終わらせているから、長い時間をかけて作り込んでいくアルバムに比べてよりパーソナルというか。私がやりたいことを、そのままカタチにしたようなアルバムになったと思う。ビッグ・シーフとの違いはそこかも知れないね、私自身の「楽しみ」のための楽曲集という感じ。

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