モモコグミカンパニーの居残り人生教室「大学の恩師と語った幸せの話」

左からモモコグミカンパニー、有元健氏(Photo by Takuro Ueno)



手段ではなく目的として扱う

モモコ:なるほど。あと音楽についても先生の意見を聞きたくて。私はBiSHに入る前まで何よりも勉強を優先して頑張ってきたんです。でもBiSHで他のメンバーと一緒に音楽をやることになって、私以外は人間力が高い子ばかりで「自分は何のために勉強をしてきたんだろう」って思ってしまったんですよね。でも音楽の力はすごいなとも思っていて。

有元:音楽って、感情や情動ってものと結びついてる文化現象なんだよね。例えばライブに行くとファンの人たちは自分のハートがガッて揺さぶられるわけじゃない? そういう空間こそ今の社会の中で貴重なものだと思う。今は感情が爆発しないように生きていかなきゃいけないわけでしょ。人前で怒鳴ったらダメだし、酔っ払って騒いで大声出すのもダメ。人間なんて単なる生物だから、そういう環境にいると無意識のうちにストレスをためてしまうんだよ。でもライブに行けば、自分と同じ音楽を好きなファンがたくさんいて、その中でお互いの感情を高め合いながら、アーティストとの信頼関係が築ける。

モモコ:今の社会で私たちみたいな若者が生き残っていくために、何を大切にしたらいいと思いますか?

有元:今は「幸せ」という概念がパッケージ化されてしまってる社会なの。大企業に入って年収1500万円もらうとか、自分で会社を起業して高値で売却するとか、休みの日には趣味を充実させるとか、クオリティ・オブ・ライフって考え方があるように、幸せが指標化されてるんだよね。でもそれらを幸せだと決めつけるのは、自由とは正反対のことだよね? 既存のイメージの中にある「幸せ」を探す必要はないし、人それぞれ自分が到達できる幸せの形があると思う。

モモコ:はい。私達の世代って、本当にそういう感じだと思うんです。描かれた幸せに向かって走り続ける子もいるし、例えば女の子だったら結婚もありますよね。

有元:いわゆる「いい高校」や「いい大学」に入ると、なんとなく階段を上っているような感覚が持てると思うんだけど、その階段の先にある「幸せ」っていうものを一度は疑ったほうがいいよね。僕の話をすると、僕は生まれて1歳になる前に喘息になって、ほぼ毎日のように喘息の発作が出たわけ。それが15年ぐらい続いたんだけど、12歳ぐらいのときに神様にお願いしたの。「喘息だけ治してくれたらあとは何もいらん」って。小学生のときに「喘息がきっかけで死んでしまうかもしれない」と思っていて、自分がこの世に生まれて生きている意味を常に考えてたわけ。そんな中、自分の幸せって何だろうと思ったとき、喘息が治って息がラクに吸えるとか、夜ぐっすり眠れるとか、そういうことだった。それで神様にお願いしたら、治ったんだよ。そうやって幸せを手にすることができたわけだけど、そのあと出会った本がサン=テグジュペリの『人間の土地』だったんだ。読んだことある?

モモコ:いえ、読んだことないです。『星の王子さま』の作者ですよね。

有元:うん。じゃあ、あげるよ。

モモコ:やったー! ありがとうございます。うれしいです。

有元:喘息も治って、じゃあ次は何が自分にとって幸せなんだろうと考えていたとき、大学3年生ぐらいのときに読んだこの本のおかげで方向性が見えた。本の中に<真の贅沢というものは、ただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ>という言葉が出てくるんだけど、自分にとってお金や名声は中心的なものではないなと。あったらうれしい程度というか。「自分も他人も“手段”として扱うことなく、“目的”として扱いなさい」とは哲学者のイマヌエル・カントの言葉なんだけど、お金や名声よりも僕を目的として扱ってくれる人との関係を大事にしたいと思ったの。

例えば、モモコの今のBiSHという看板を見て、手段として捉えて近づいてくる人もいるかもしれない。でも、モモコのお母さんやお父さんは目的としてモモコのことを扱ってると思う。「うちの娘、TVに出てるんですよ」ってとこに重きを置いてるわけじゃなくて、もしモモコが仕事を辞めたとしても、ずっとこれからも支えてくれるわけでしょ。そんなふうに、この人と一緒にいて話をすること、同じ時間を過ごすこと、そしてすごく幸せだなとか楽しいなとか思ってくれる人をいっぱい持てるんだったら、それは人間関係の贅沢だと思うんだ。

モモコ:ありのままの自分を見てもらう。

有元:だから僕も自分の授業に来てくれる学生さんに対しては、そういう風に見てるよ。この子の人生がより良いものになるように、授業を通じたり、チュートリアルを通じたり、もしくは飲み会の席での一言を通じたりして、いろいろやるようにしてる。そういうことを一生懸命やっていると、自分の軸がハッキリしてくるからブレないで済むんだよね。それこそクオリティ・オブ・ライフという言葉なんかに惑わされることはないし、人間関係の中で幸せを感じられる。それが僕にとって一番の幸せ。

モモコ:手段ではなく目的として扱う。いい言葉ですね。

有元:目的として扱う、扱われるという関係をたくさん作れると、それは真の贅沢になると思うよ。

=あとがき=

本当の幸せってなんだろう? きっと誰でも一度は考えたことがあると思います。有元先生のお話を聞いて、作られた幸せに惑わされてはいけないな、と感じました。「いい学校を出たら幸せ」「結婚したら幸せ」そんな「〇〇したら幸せ」というようなパッケージ化された、分かりやすい「幸せ」に飛びついて、自分を追い詰めたり、焦ったりする前に、「みんなはそうかもしれないけど、自分はどうだろう?」と常に自分の声を聞くこと。それは時に難しいけど、とても大切なことなのかもしれません。

Edited by Takuro Ueno(Rolling Stone Japan)



モモコグミカンパニー(BiSH)
https://twitter.com/gumi_bish
2015年3月、BiSHのメンバーとして活動を開始。2016年5月のシングル「DEADMAN」で早くもメジャーデビュー。2017年12月には、結成からわずか3年で『ミュージックステーション』に出演し、“楽器を持たないパンクバンド”として強烈な個性を見せつける。その間、『KiLLER BiSH』と『THE GUERRiLLA BiSH』の2枚のフルアルバムを発表。2018年12月22日には幕張メッセ9・10・11ホールにて1万7,000人を動員した単独ライブ「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE”」を開催した。2019年4月からは全国ツアー「LiFE is COMEDY TOUR」がスタート。7月3日には最新アルバム『CARROTS and STiCKS』をリリース、また9月23日には大阪城ホールワンマン『And yet BiSH moves.』が決まっている。現在BiSHのメンバーはモモコグミカンパニーの他、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人。
https://www.bish.tokyo/

有元 健
国際基督教大学教養学部 アーツ・サイエンス学科、上級准教授。著書に『耳を傾ける技術』 (訳書)、『大衆文化とメディア』(共著)、『メディア・レトリック論-文化・政治・コミュニケーション』(共著)など。

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