[ALEXANDROS]川上洋平の信念 「世界一のロックスターになる」という途方もない夢


僕らは、実は現実主義者

ーその目標にたどり着けない未来を想像したことはありますか? 


もちろんあります。僕らは理想主義を信奉しているようにみえて、実は現実主義者だから。でも、人間って突き詰めればシンプルなものが一番強いじゃないですか、現実的に考えても。「世界一のロックスターになる」という途方もない夢を心の底から信じている、という状態は実はとてもプラグマティックなマインド・セットなんじゃないかなって。現実主義って醒めてたり、自分たちには無理だって思うこととは違うと思うんですよ。たまにイベントとかに参加すると思うんですけど、ロック・バンドが、みんな醒め切ったマインドで音楽をやってるような気がして。「うちらは別に下北でちやほやされてれば……」みたいなのふざけんじゃねぇよって思うんです。EDMが爆発的に流行って消えていったように、そういう変化の波はどんどん早くなってる。「ロックなんか下火」って言われるほうが、逆に燃えるじゃないですか「中指突きつけてやろうぜ!」って思うんですけどね、なかなか仲間がいない……。

ー[ALEXANDROS]には孤高という言葉が似合う気がします。歌詞のことについても伺いたいんですけど。最近、日本のポップ・ミュージックの歌詞は殊更に共感を強化する応援歌の要素が強くなっているような気がして。[ALEXANDROS]の場合は、どのようなストーリー、あるいはメッセージを伝えようとしているのか、ということを伺いたいのですが。

今のいわゆる日本の「ロックスター」たちの書く歌詞って誤解を恐れずに言えば、正直なところ「説教くさいな」って思うんですよ。自分の言葉に陶酔しちゃってる感じがすごく苦手で。お客さんに「何歌ってんのか、全然わかんねぇよ、ふざけんな!」ってケンカ売られるぐらいの内容でいいんじゃないかなって(笑)。でも、自分勝手でやりたい放題なリリックこそが理想ではあるんですけど、自分が書くものが「そうだ」とは言い切れないところはありますよね。ステージに立ってるときや曲を書いているときは、自分のことを王様だって思ってるし、世の中に出す曲は全部「俺の言ってることを聞けよ!」って宣言そのものなんですけど、ファンの人の人生全部には責任負うことは正直できないですからね。今、つらい人や苦しい人もいる中で安易に「お前も夢を追いかけろよ!」とか、そんなことは軽々しく言えないですよ。僕はよく、ライブのときに「こんな曲なんか捨てちゃって、自分の人生を楽しんでください」ってMCで言ったりするんですけど、唯一、メッセージを掲げないバンドである[ALEXANDROS]が社会に、世の中に対して言うことがあるとしたら、そこかなって思ってます。自分の人生を主人公として楽しんでほしいという思いです。


Photo by OGATA for Rolling Stone Japan

ー[ALEXANDROS]の歌詞って、私小説的な趣のあるストーリー仕立てのものから、抽象的あるいは幻想的な歌詞まで幅広いレンジがあると思うんですね。でも、どこかで馴れ合いを拒否しているところがあると思う。「これは自分の物語なんだ」と、主張している部分が、どの歌詞にもある気がします。川上 SNSで個人がこれだけ発信する時代ですからね。みんな、自分自身のこと大好きじゃないですか(笑)。ブルーノ・マーズがステージで歌って踊ってるのを観るよりも、彼のライブに参加してる自分たちを撮ることの方が大事なんですから。それを自立って言い換えることもできるし。


ちなみに、ちょっとトリッキーな質問なんですけど川上さんが「恋愛」について、ほとんど書かれてないのはなぜなんですか? ニューアルバムに収録される「Your Song」も「アルペジオ」も、自分自身の闘いや音楽そのものへの愛情を歌っている歌で。ほかの収録曲がどうなのかわからないですけど、少なくとも今までのディスコグラフィーの中では幸せな恋愛の歌はほとんどない……微妙な話題ですが(笑)。

うーん……恋愛以上に書きたいことがあるからじゃないですかね。本当のところをいうと、あんまり興味がないのかもしれない(笑)。恋愛って意外と自分の中で昇華できちゃうんですよ。解決できないグチャグチャしたもののほうが歌にしやすくて。失恋について書いてきたのはそういうことですね。

ー川上さんが考える恋愛観とかやっぱり気になりますけどね。鋭い視点を持ってらっしゃるから。

メンバーにも書け書け言われるんですけどね。ファンの皆さんも「Leaving Grapefruits」みたいな失恋の歌を好きでいてくれますし書かなきゃいけないんだろうけど、家に一人で帰って、「うぅ……」って思うことは、やっぱり、自分がどうやったらここから這い上がれるんだろうなってことだから。

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