[ALEXANDROS]川上洋平の信念 「世界一のロックスターになる」という途方もない夢


ロックンロールにこそ未来がある

ーその空気感、よくわかります。例えば、洋楽アーティストのオープニング・アクトとして出てきた日本のバンドって冷遇される傾向にありましたよね。酷いとまったく拍手すら起きないなんてことも……。

そう! いや、だから、あの頃に勇気を持って海外のアーティストとライブをやっていた人たちのことはみんな尊敬してますね。THE YELLOW MONKEYとかNORTHERN BRIGHTみたいに前線に立って闘ってきた人たちがいなかったら、今のSUMMER SONICやFUJI ROCK FESTIVALにあるような「洋邦関係なく、音楽を楽しもうじゃないか」みたいな最高のヴァイブスって生まれなかったんじゃないかなって。僕らもプライマル・スクリームやカサビアン、ミューズとライブをやらせてもらったんですけど、オーディエンスは僕らが一般のリスナーだった頃と違って優しかったし受け入れてもらえた。これだけラディカルな変化が日本でもあるんだから、海外でそれが起きてもおかしくないですよね。

ー今、お話伺ってても出てくるアーティストがロックンロールだけじゃなくて、ブラック・ミュージックのアーティストも多くて。ロックンロールって音楽ジャンル自体がメインストリームとは言い難い状況にあって、その中で世界で通用する音楽をロック・バンドが作って、その上で成功するためにはどんなストラテジーがあると思いますか?

俺は逆にニューヨークでいろんなライブに行って、ロックンロールにこそ未来があるなぁって思いましたね。レイ・シュリマーみたいなヒップホップ・デュオが流行っている状況でも、ロック・バンドはまだまだ活躍できる。なぜなら、自分もそうですけど、ロックンローラーがそういう今流行っている音楽の要素も吸収していけば、どんどん進化できますからね。アークティック・モンキーズの『AM』ってアルバムとかロイヤル・ブラッド、ポスト・マローンなんかはそういう研究の最新の成果と言えるかもしれない。

ーリバイバルや伝統芸的な感じではなく、現行のポップ・ミュージックのコンテクストも取り入れて、温故知新の……あるいは斬新で奇抜な発想のロックンロールが生まれてくる可能性がある。と。

ミュージシャンとしては、ロックンロールって歴史の繰り返しの中でしか生き残れないジャンルになってしまったのかな、って思ったこともあったんです。2000年代に入ってスタイリッシュで賢い雰囲気だけが先行する音楽が増えて、例えば90年代後半のバカっぽくて無邪気なブリティッシュ・ロックのような感じ……まあ、オアシスとかなんですけど(笑)、そういう無限大のパワーが有り余ってる感じがロックンロールから消えてしまった。でも、それが最近また変わってきている感じがして。賢さが一回りして、もっと純粋にいろんな音楽を聴いてきたミュージシャンがロックというフォーマットに興味を持ち始めている気がして。リスナーもそうなんですよ、フラットになってきているから「ロックって私、聴かなかったけど、これはいいじゃん」ってEDMとか好きなギャルに思ってもらえるような音楽が作れる土壌になってきたかもなって期待しています。

ー今度のアルバムはその第一歩といってもいいアルバムかもしれないですね。

「Mosqutio Bite」のYouTubeのコメントを読むと「ノリ方がわからない」とか「テンポが遅すぎてダサい」「ロックンロールとして要素が足りない」とか書いてあるんですけど、こういうこと書いてくれるの実はすごくうれしくて。それって聴いてくれてる人には明確なロックンロールの形があって、それと合致していないから僕らの曲を気に入らないって思ってるわけですよね。「違うんだよ、これが新しいロックンロールなんだ!」って、いわば、宣言ですよね。「これが新しくてカッコいい最新型のロックンロールなんだ」って噛み砕いてもらえるようになったら、僕らがスタンダードになったってことで。そうなったら、マジで最高ですよね。

ー[ALEXANDROS]って、ずっと「世界的なロックスターになること」って目標を掲げてきてたわけじゃないですか。グラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーをやるとか、具体的なこともおっしゃっていましたよね。

そうですね。

ーでも、遡れば2008年にジェイ・Zがグラストンベリーでヘッドライナーを務めて。最近で言えば、ビヨンセがポップ・ミュージックの歴史を変えるような凄まじいライブをコーチェラのステージから全世界に叩きつけた。こういう傾向をみると音楽フェスでもロックンロール・バンドの存在感って薄くなっているじゃないですか。先ほどの話にも通じますけど、そう考えると「世界一のロックスター」って今、口にすると虚しく響くような言葉でもありますよね。

でも、ビヨンセもジェイ・Zもロックスターじゃないですか。ロックスターの定義っていろいろあると思いますけど、ギターかダンスかって表現のツールの部分は実はどうでもよくて。そのレベルまでいくと、ジャンルって存在しないに等しいんじゃないかな、と。実際、ビヨンセだってジャック・ホワイトやジェイムス・ブレイクとコラボした曲だってあるじゃないですか。「世界中の誰もが知っているアーティスト」って表現のほうが正確なのかもしれないですけどね。ロックっていう思想が入ってくると、どうしても誤解を生みがちなんですけど。もちろん、ロックンロールってカウンター・ミュージックだし、ジャンルとしては確かに衰退しているから……全体を底上げしていきたいって思いも、もちろんありますよ。

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