シネマティック・オーケストラが語る復活劇の裏側「音楽における政治的主張を取り戻したい」

シネマティック・オーケストラの中心人物、ジェイソン・スウィンスコー(Photo by Kazumichi Kokei)

今年でデビュー20周年を迎えるシネマティック・オーケストラ(以下TCO)が、前作『Ma Fleur』から実に11年ぶりとなる最新アルバム『To Believe』をリリースした。

通算4枚目となる本作は、LAビート・シーンのキーパーソンであるミゲル・アトウッド・ファーガソンをストリングス・アレンジに起用。彼の他にも、ドリアン・コンセプトやデニス・ハム(サンダーキャットのメンバー)らブレインフィーダー周辺の鬼才を集め、ジャズはもちろんロックやヒップホップ、エレクトロニカなど様々な音楽スタイルを縦横無尽に行き来しつつ、念入りなポスト・プロダクションにより構築された、鉄壁のサウンドスケープを全編にわたって展開している。中でもアルバム冒頭を飾る、モーゼス・サムニーをフィーチャーした美しいタイトル・トラックは、この混沌とした現代社会に対する深い絶望を見事に描き出している。

今年4月にはおよそ7年半ぶりの来日を果たし、初のホールコンサートツアーを開催したTOC。その中心人物であるジェイソン・スウィンスコーに、アルバム『To Believe』の制作秘話などたっぷりと話してもらった。

─今作では、ソングライティングで名を連ねているドミニク・スムス(以下、ドム)が深く関わっていると聞きました。彼はジェイソンのマネージャーだった時もあれば、前作『Ma Fleur』(2007年)やライブ盤『Live At The Royal Albert Hall』(2008年)では、ミキシング・エンジニアも務めたことがあるそうですね?

彼と出会ったのが、1997年くらいだったかな。音楽の話であっという間に意気投合し仲良くなって、そこから付き合いが始まっているんだ。ただ、当時の僕の曲作りというのは、AKAI MPC3000とMacintosh Quadra 630を使ってワールドミュージックやジャズ、映画音楽、現代音楽にミュージック・コンクレート……そういった音源からフレーズをサンプリングしながら組み立てていくという、非常に個人的な手法だったので、なかなか「共作」とまではいかなかったんだよね。

で、知っていると思うけど今作に取り掛かる前に僕は、ディズニーネイチャーの映画『フラミンゴに隠された地球の秘密』という大きなプロジェクトに関わっていて、そこではフル・オーケストラを使った極めて贅沢が許される音作りをしていた。それを経ての曲作りだったから、ちょっと気持ちを切り替えるというか、リセットをまずしなきゃならなかった。昔ながらのサンプラーとシーケンサーで音作りというところに立ち返るということを、今回はドムと2人でやってみたんだ。アイデアを出し合い、共通言語を探し出すというか。これまで散々、音楽の話をしてきた仲なのだけど、音楽を「作る」となると、また勝手が全然違ってね。とにかく、コミュニケーションを深めるところあら始めていったんだ。


『To Believe』収録曲「Lessons」のライブ映像

─日本でのオフィシャル・インタビューでドムは、「これまでシネマティックとして築き上げてきたものに、別の要素をブレンドさせて、そのバランスで今作を作っていった」と話していました。「別の要素」とは具体的に、どのようなものだったのでしょうか。

非常に重要だったのは「よりコンテンポラリーな音作り」ということだ。前作から11年も経てば、当然ながら機材やテクノロジーの進化は加速している。ホーム・スタジオ用のアプリケーションも豊富に開発されたし、今や配信まで自分で出来るようになった。そうした環境の中で、僕らのプレイグラウンド(遊び場)も広がったと同時に濃密になったんだ。

さらに、本作を仕上げる上で重要だったのが、ミックスエンジニアを務めてくれたトム・エルムハーストの存在だ。彼はいわゆるアンビエントやトリップホップのようなエレクトロ系のエンジニアではないが、ジェイミー・XXやマーク・ロンソンら一流の音楽家たちと仕事をしてきただけあって、マクロなセンスを持っている。そう、特定のジャンルのスペシャリストではないことも重要だったかもしれないね。

Translated by Kazumi Someya

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