シネマティック・オーケストラが語る復活劇の裏側「音楽における政治的主張を取り戻したい」

─ところで、モーゼス・サムニーの参加した楽曲「To Believe」をアルバム・タイトルにして、今私たちに「信じること」を問うたのはなぜでしょうか。

タイトルそのものへの解釈は割とオープンだと思ってる。要するに、「信じる」とは宗教的なことかもしれないし、政治的信条かもしれない。あるいはメディア・リテラシーのことだと捉えてもらっても構わない。要するにこれは、「ステイトメント」というより「クエスチョン」だね。しかも、今の世界的情勢を踏まえてみれば、誰にでも意味を持つ問いかけではないかな。例えばテクノロジーの進化を取ってみても、僕らは恩恵を被る一方で、グローバリゼーションによりローカルなものがどんどんなくなっていく。コミュニティの特色が破壊されていく面があるよね。SNSも、コミュニケーションが最適化していく面がある一方で、逆にコミュニケーションが妨げられている。

そういうことに対し、「このままいくと、我々はどうなってしまうんだろう?」という問いかけでもあるし、それらを踏まえて「今後、我々は何をすべきか?」という問いかけでもある。今、世界のあらゆる場所で両極化が進んでいる。裕福な人はより裕福に、そうでない方はより貧しくなっている。それを「何とかしよう」と思っている人などどこにもいない。そんな状況を俯瞰しつつ、その下にある小さなコミュニティの「今」を、社会の「今」を描き出しているアルバムなんだ。



─そんな現状を、あなた自身はポジティブに捉えていますか?

いや、正直なところ絶望感が広がっているね。疎外感も広がる一方だ。世界はよりダークになっている気がするよ。

─そんな中「自分」を保つために、僕らはどうしたらいいと思いますか?

音楽における政治的主張を今一度取り戻したいと僕自身は思っている。音楽はとてもパワフルなツールであり「声明」だと思うからね。ただ、それをするためにはまず「自問」するところから始めなければいけない。自分は何をしたいのか、何を信じているのかを「自問」した上で、他の人たちのために何が出来るのかを考えるべきだし、まずはそこから始まるのだと思うよ。

─実は、もう1枚のアルバムを同時進行で進めていて、当初は2枚組も検討していたそうですが、それはどんな内容なのでしょうか。

ドムと共作をした時、とにかく「制約」を設けずにどんどんコンスタントに曲を作っていったから、素材がたくさんあるんだ。ある時点で曲作りは一旦置いておいて、まずは今作を仕上げたところ。早くスタジオに戻って残りを完成させたいと思っているんだけど、あと1年くらいはかかるかな。

─さらに10年ということはもうなさそうですか?(笑)

(笑)。まあ、確かに前作とは間が空いてしまったけど、それは必要な時間だったんだよね。「息をつく」って大事なことだよ? 自分を振り返ったり、世の中の変化と折り合いをつけたり。単純に観察する時間はとても大切だ。アウトプットばかりを続けていくんじゃなくて、ちょっと時間に余裕を持って作り上げる作品こそ、長く楽しめるものとなる。それは音楽だけでなく全てのアートがそうだ。とにかく意味のあるものを作りたい。それが出来なかったら作る意味がないよ!


Photo by Kazumichi Kokei



『To Believe』

THE CINEMATIC ORCHESTRA
『To Believe』
レーベル:Ninja Tune / BEAT RECORDS
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10050

Translated by Kazumi Someya

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