「グランジ」史上最高のアルバム50選

15位 L7 『ブリックス・アー・ヘヴィ』(1992年)


L7は3枚目のアルバム『ブリックス・アー・ヘヴィ』で商業的成功のピークに到達した。プロデューサーのブッチ・ヴィグは、アイデアが尽きることのない厚みのある彼女たちのリフに、埋もれないメロディとシンガロングのサビを作る手助けした。ブッチによる改良が功を奏し、アメリカのビルボードのヒートシーカーズ・チャートで1位を獲得し、イギリスとオーストラリアではそれ以上の成功を収めた。「彼女たちはぶっ飛んでいるし攻撃的で自信に満ちていて、本当にやりたい放題な90年代を代表するバンドよ。私たちをツアーに呼んでくれて、そのときは日記をつけていたわ」とルナチックスのギタリスト、ジーナ・ヴォルプはローリングストーン誌に語っている。

その栄光の大部分はシングル「プリテンド・ウィ・アー・デッド」と、MTVで繰り返しオンエアされた同曲のミュージック・ビデオによってもたらされた。この曲は、スージー・ガードナーのしゃがれ声の哀歌「スライド」や「モンスター」、メタル的な力強さを持った「エヴァーグレイド」、ポーカーフェイスな怒りの「ワン・モア・シング」(後者2曲ではベーシストのジェニファー・フィンチがレアなヴォーカル・パフォーマンスを見せている)のような、アルバムの持つより激しい“快楽”へ導いてくれるゲートウェイ・ドラッグ的な役割を果たしていた。

ブッチ・ヴィグがこのアルバムで果たした功績は、カルト教団に入る前に友達の家のガレージでスプレー缶を吸ってハイになるスキンヘッド(実話だ!)から、怠け者の夫をベッドに縫い付けてフライパンで殴って子どもたちと出ていく妻(実話かも!)まで、ドニータ・スパークスの歪んだ奇抜なアイデアを何でも自由に歌わせたところにあると言えるだろう。しかし、それが実話であれ創作であれ、どんなに異常であったとしても、映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』で不朽の名作となった、このアルバムのもう1つの際立った曲「シットリスト」で感じられるスパークスの異常性には足元にも及ばない。





14位 アリス・イン・チェインズ 『フェイスリフト』 (1990年)


ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』はグランジを全国的な社会現象に変えたが、グランジのコアなファンベースを築き始めたのは『ネヴァーマインド』の1年前にリリースされたアリス・イン・チェインズの『フェイスリフト』である。このアルバムが成功した秘訣は何だったのか。ヘヴィでスローなブラック・サバス的サウンドでヘヴィ・メタルのファンに訴えかけたのだ。そしてまた、オジー・オズボーンもアリス・イン・チェインズのファンであり、彼らを自身のツアーの前座に呼んだり、去年の彼のお気に入りのメタル・アルバムのリストに『フェイスリフト』を選んだりしている。

しかし、『フェイスリフト』がグランジであることに疑いの余地はない。このアルバムで最も広く知られ、グラミー賞にもノミネートされた曲「マン・イン・ザ・ボックス」を聞いてみてほしい。ギタリストのジェリー・カントレルによるシンプルなチャギング・リフは、アリス・イン・チェインズがなぜか一緒にツアーを回ったポイズンのような、当時のポップ・メタル・バンドの甲高いギター・トーンや派手な演奏とは全く対照的である。ステイリーの絶望に満ちた悲痛なヴォーカルはお祭り騒ぎ的なヘア・メタルとは正反対のものであった。「俺は俺自身やこの世界に100%満足することは決してない。ずっと何かに不満を言っているだろう」と、2002年にオーバードーズで亡くなったバンドのヴォーカリストは、1992年にローリングストーン誌に語っていた。

(アルバムの大半の曲と同様、カントレル作曲の)シングル曲「ウィ・ダイ・ヤング」「シー・オブ・ソロウ」「ブリード・ザ・フリーク」を引っさげ、『フェイスリフト』はこれから訪れるシアトル台風の第一波として世に吹き付けた。また、注目すべきはこれがゴールド・ディスクとして認定された初のグランジ・アルバムだったということだ。それに次ぐのが『ネヴァーマインド』である。





13位 ニルヴァーナ 『ブリーチ』(1989年)


ニルヴァーナはこの『ブリーチ』で、シアトルの乱雑かつヘヴィで不機嫌なハード・ロックを広める存在としてインディ・ロック・シーンに登場した。当時、結成からたった2年であった彼らは、たった600ドルの予算で、急成長していたグランジ・シーンの異常なまでに退廃的なサウンドを見事にまとめあげたのだ。「サブ・ポップと“ロック”をやっているシーンからのプレッシャーがあった。俺たちは最初みんなを喜ばせようとしていたんだ。それでどうなるか見てみたくて」とカート・コバーンはバンドの伝記『Come as You Are』の中で語っている。その努力の結果、単にコバーンがメルヴィンズの熱烈なファンだということを反映しているだけでなく、実際にメルヴィンズのドラマー、デイル・クローヴァーを起用した「フロイド・ザ・バーバー」「ペーパー・カッツ」などの曲の荒々しいリフが生まれた。

このアルバムはアンダーグラウンドからの影響は明白であるが、コバーンの歌詞とメロディはポップ音楽への深い理解も感じることができる。甘くも気まぐれなパンク版ビートルズのような流れの「アバウト・ア・ガール」、クリス・ノヴォセリックの催眠術的なベースの「ラヴ・バズ」(ショッキング・ブルーのカバー)、ハイテンポでキャッチーな「ネガティヴ・クリープ」など、『ブリーチ』は表面的には攻撃性をひけらかしているが、聞けば聞くほど繊細な違いを感じることができるアルバムなのだ。

「『腹が立っているけど、自分でも何に対してなのかはわからない。ただネガティブな歌詞を歌おう。それが性差別的とか極端に恥をかくようなものでさえなければ大丈夫だ』って感じ。どの歌詞も自分にとって重要なものだとは思っていない」とコバーンは1993年、ニルヴァーナのデビューの裏にあった意図についてスピン誌に語っている。彼がパッと作ったように思えるような、この『ブリーチ』がシーンのファンや初期のバンドの熱狂的な信者を獲得する第一歩となった。これを足がかりとして、ほんの数年後、彼らは世界をものにするのだ。




Translated by Takayuki Matsumoto

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE