ドイツの偽令嬢、裁判の最終弁論でやり取りされた「方便」と「詐欺」の意味

2019年4月22日、ニューヨーク州高位裁判所で、休廷後に法廷へ戻るアナ・デルヴィー被告。(Photo by Richard Drew/AP/REX/Shutterstock)

ドイツの令嬢に成りすまし、ホテルやレストランで数十万ドル相当をだまし取ったとみられる28歳の女性アナ・デルヴィー被告が、アメリカ時間23日、マンハッタンの法廷に出廷した。分厚い眼鏡の奥で平然としながら、自らの裁判の最終弁論に耳を傾けた。

デルヴィー被告は重窃盗、重窃盗未遂、および利益窃盗の罪に問われている。ニューヨーク市内の銀行やホテルから25万ドル相当をだまし取ったほか、社交クラブ兼アートギャラリースペースの開業資金として数百万ドルの融資を申請するにあたり、シティ・ナショナル・バンクやフォートレス・インベスメント・グループといった銀行および投資銀行に偽造書類を提出した罪に問われている。デルヴィー被告は3500万ドルの信託資金を抱えるドイツの上流階級の令嬢に成りすまし、ニューヨーク市指折りのエリート組織に出入りしていた。

白いレースのショートドレスに身を包み、髪をポニーテールに結ったデルヴィー被告は静かに座って、被告側の弁護士トッド・スポデック氏の最終弁論に耳を傾けていた。スポデック弁護士は冒頭陳述の時と同じく、開口一番フランク・シナトラを引き合いに出した。最終弁論の中でスポデック弁護士は、デルヴィー被告をソーシャルメディア時代に自力で成功を手にした起業家になぞらえた。「シナトラはニューヨークで、裸一貫でスタートしました。ソロキンさん(デルヴィー被告の本名)も同じです。2人も自らの手でチャンスをこじ開けたのです」

そのあと彼は、フォートレス・インベストメント・グループをはじめとする金融機関に対して行った2200万ドルの融資申請にふれ、申請の理由はひとえに、デルヴィー被告がマンハッタン・ロウアーミッドタウンのパークアヴェニューサウス281番地に建設を計画していたアートギャラリースペースの開業資金だったと述べた。「ソロキンさんは野心的で、粘り強く、固い意志でビジネスを実現させようとしました」と言ってスポデック弁護士は、被告が自分の夢だったプロジェクトを本気で実現させるつもりだった証拠として、建築家のガブリエル・カラトラバ氏やホテル王アンドレ・バラージュ氏など、様々なタイミングでプロジェクトに関心を寄せた「著名人」の名前を列挙した。「もしこうした著名人が現れて一緒に組もうと言ってきたら、実現すると思うのは間違いでしょうか? 自分とビジネスをする気があるのだと考えるのは間違いでしょうか?」とスポデック弁護士。

デルヴィー被告はドイツの令嬢を騙ることで、そうでもしなければ入り込めなかった一流社交界に近づくことができたのだ、とスポデック弁護士は主張した。被告は富裕層を罠にかけて詐欺を働いたわけではなく、むしろ「金持ちを優遇する社会の仕組みと、金の存在」が彼女の行動を可能にしたのだと主張した。航空サービス会社Blade社は3万5000ドル相当のフライト代金の未払いを理由にデルヴィー被告を訴えているが、こうした企業は被告が上流社会の家柄だという理由で彼女を毎回「特別扱い」した、というのが彼の主張だ。

Translated by Akiko Kato

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