ケイジ・ジ・エレファント、プレイリスト時代に勝ち取ったロックンロールの未来

海外メディアでは、先行シングル「Ready To Let Go」の背景に注目が集まっている。この曲はマット・シュルツが少し前に離婚した妻(「Cigarette Daydreams」のビデオに出演していた女優で、シャンペン・スーパーチリンのシンガーとしても活動しているジュリエット・ブックス)と訪れたイタリアのポンペイで、別れを察知したときの心情が綴られていると公表されたからだ。ヴェスヴィオ火山噴火で亡くなった人々の石膏で復元された遺体を目にしながら、命のはかなさを自分たちの運命と重ね合わせる——この歌詞には、マットが同じ時期に、仲が良かった従兄弟と親友を続けて亡くしたことも反映されているそうだ。この曲のビデオはマット自身が監督しているが、メタファーとして「血」を使ったシュールかつショッキングな内容になっている。



“離婚と死”は、本作のラストに置かれた、感情を抑えるように歌う「Goodbye」のテーマにもなっている。曲ごとに異なるキャラクターを設定して歌詞を書いたアルバムだとマットは言っているが、「The War Is Over」や「Love’s The Only Way」も、歌詞を読む限り離婚と無縁とはとても思えない。



実際、新作に取り掛かる前のマットの落ち込みようはかなり深刻だったようで、兄のブラッドもマットが立ち直るまで見守るしかない状態だったらしい。しかしアルバムのプロモーションでこの話を訊かれる度、マットは気丈に「別れを歌うことで前を向く」モードに切り替わったという旨の回答をしている。コミュニケーションの断絶を嘆くばかりでなく、それを言葉と音にして向き合う、ある種のセラピーのようなアルバムと言えるかもしれない。

このように明け透けなタイプの表現者であるマットは、本作のタイトル曲「Social Cues」で、周囲から「ブレイク寸前」と言われながら活動を続けてきた自分の心情をさらけ出してもいる。ロックスターを客観的に見る視点、自分を遠くから眺めるような距離感は、この人ならではだ。

なお、彼らのライブ・アクトとしての魅力は2012年にリリースされたライブ盤『Live From The Vic In Chicago』に凝縮されており、DVDとの2枚組で発売されている。スタジオ盤だけでは把握しきれない彼らの躍動する姿を、新作と合わせて是非とも堪能してもらいたい。



2017年にはアコースティック・ライブ盤『Unpeeled』をリリース。こちらではレックレス・エリックの「Whole Wide World」やストラングラーズの「Golden Brown」といった古典と共に、ダフト・パンクの「Instant Crush」(原曲はジュリアン・カサブランカスをフィーチャー)をカヴァーしており、彼らの雑食性をわかりやすく伝えてくれる。ストリングスを加えたアレンジも秀逸だ。

アートや映画を好む一方で、古着収集にも夢中なマットの横顔を伝える記事は、Rolling Stone Japanのこちらを。






ケイジ・ジ・エレファント

『Social Cues』
発売中

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