全米ライフル協会に潜入したロシアの「仲介工作員」、18カ月の禁固刑言い渡される

2013年、ロシアのモスクワでおこなわれた拳銃所持合法化を支持するデモ集会にて、観客の前で演説するマリア・ブティナ被告。(Photo by AP/REX/Shutterstock)

全米ライフル協会(NRA)を介して、モスクワとトランプ政権を裏でつなごうと画策したとして共謀罪に問われ、のちに有罪を認めたロシア国籍の女性、マリア・ブティナ被告の裁判で、アメリカ政府は18カ月の禁固刑と即時強制送還を求刑した。

アメリカ時間19日、連邦裁判所に論告要旨が提出された。そこには、学生だったブティナ被告が何も知らずに、ただワシントンDCで職業的な交友関係を広げようとしていたわけではない、という主張を裏付ける詳しい内容が書かれていた。

例えば、2015年5月にブティナ被告と当時の駐米ロシア大使セルゲイ・キスリャク氏が会合した様子が論告要旨には記述されている。会合の中で被告は、共和党の大統領選挙陣営との接触状況を報告している(彼女のSNSの投稿によれば、ブティナ被告は当時ウィスコンシン州知事だったスコット・ウォルター候補に狙いを定めていた)。

政府はブティナ被告が、アレキサンダー・トールシンと名乗る「ロシア工作員の指示および監督の元で行動していた」と断定。論告によれば、ブティナ被告も「彼がロシア政府に逐次報告していたこと、自分の行動が最終的に海外政府の利益につながることを十分に認識していた」とし、「別のロシア政府職員が主導権を横取りして」自分抜きで裏ルートを構築するつもりではないか、という懸念も口にしていたという。

おそらく論告要旨の中で最も気がかりなのは、ブティナ被告が2016年後半にトランプ・ワールドタワー関係者とのコネを利用し、新政権の閣僚人事の際に手を貸したとする本人の証言だろう。これによると、ブティナ被告は2016年11月11日、「本人いわく閣僚候補として名前が挙がっている人物の名前をロシア工作員に伝えた」という。「被告はロシア工作員に対し、自分が挙げた人物の情報をロシア政府から提供してもらえないかと打診したうえで、『我々の意思をアメリカに通すことができるだろう』と伝えた」。この爆弾発言の詳細について、論告要旨にはこれ以上の詳細は書かれていない(一部削除されたミュラー特別検察官の報告書には、トランプ・ワールドとロシアのその後の接触については詳しく記載されているが、ブティナ被告には言及していない。ホワイトハウスにコメントを求めたものの、すぐに返答は得られなかった)。

政府は論告要旨の中で、「ブティナ被告は従来の意味でのスパイではなかった」と説明すると同時に、「海外の大国に有益な情報を入手することは、必ずしも機密書類の収集や諜報活動に関与するだけではない」という点を強調している。また、被告が行動は将来的に深刻な被害をもたらすだろう、とも力説している。添付されていたFBI情報防衛部のロバート・アンダーソン・Jr元部長補佐の陳述書によれば、「ブティナ被告がロシア連邦に提供した情報は、優れた諜報員なら何年も利用できるような価値のあるもので、アメリカ合衆国に甚大な損害をもたらし得る」という。

また、公の場でのブティナ被告の行動(その多くは、ブティナ被告の逮捕前にローリングストーン誌がすっぱぬいたNRAとロシアの癒着に関する記事の中で明らかにされた)は、いわゆる「仲介工作員」がロシアのためにおこなう「人物評価任務」の行動と一致していることも分かった。「ブティナ被告の任務には、次期大統領政権に接触して影響をもたらす、あるいはその可能性があると思われる有力者と交流を深めて情報を入手することだった」という。「被告が会った人物に関するロシア工作員宛の報告書は、いわゆる人物評価報告書の特徴をすべて備えていた。ロシア連邦にわたったこれら情報の価値は計り知れない」

Translated by Akiko Kato

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