Tempalay小原綾斗のこだわり「自分たちの自由を見失わないように」

その時の体験がきっかけとなって、「死」に取り憑かれるようになったという小原。幼児期には、兄と一緒に信号待ちをしている時、目の前を勢いよく通り過ぎていく車を見ているうちに、ふと飛び込みたくなり、実際に飛び込んで三日後に意識を取り戻すというエピソードも明かしてくれた。

「そういう衝動は今でもずっとあって。高校生の頃はちょっと自分が怖かったですね。のちに音楽をやるようになって、その衝動がより加速している感じはあります(笑)。でも、はけ口が音楽に移行したことで、なんとか正気を保っているのかもしれない。家族とは離れて暮らしているけど、メンバーやスタッフという“守るべき存在”も増えたことで、踏みとどまっているところはありますね」

そんな話を聴きながら、小原がフェイバリット・ムービーに挙げている北野武監督作品『ソナチネ』のことを筆者は思い出していた。ビートたけし扮する北川の、「あんまり死ぬのを怖がっているとな、死にたくなっちゃうんだよ」という有名なセリフは、小原の「死」への衝動に近いものがあるのではないか。

「実は、今作っているアルバムの中に“そなちね”というタイトルの曲があるんですよ。初めて観たのは中学生の頃で、まず『映画体験』として衝撃的だったんですけど、最近改めて観たら“見え方”が少し変わってたんです。あの映画って、親に恵まれなかった人たちの末路を描いているんだなって。帰る場所がない彼らが唯一見つけた“一瞬の安息の地”が沖縄なんだけど、結局のところ帰る場所はもう“死”しかない。それに気づいたのは冒頭のシーンなんです。一度、実家に帰ったチンピラがまた戻ってヤクザをやっていて、そいつに北川が『お前は帰る場所あるだろ』っていうんですよね。最近、身近な人に子どもが生まれて、その純粋無垢な存在を見た時に、『ソナチネ』で描かれていた“もう帰る場所すらない人たち”との表裏をすごく強烈に感じてしまって。それで今回、“そなちね”という楽曲を書いてみたくなったんです」



そう話しながら、タバコに火をつける小原。お気に入りの銘柄は「アメリカンスピリット」で、曲を作っていて煮詰まった時や、酒を飲む時に吸うことが多いそうだ。映画には印象的な喫煙シーンが多いが、小原の記憶に残っているのはどんな映像だろうか。

「『タクシードライバー』のラストシーン近くで、血まみれになって倒れたトラヴィスが吸っているところは忘れがたいですよね。あと、戦争映画の喫煙シーンっていつもメッチャ美味そう。あれ、なんなんですかね(笑)。今年オスカーをとった『グリーンブック』にもめちゃくちゃタバコを吸うシーンがありましたけど、最近TVではすっかり無くなりましたよね。『ロンバケ』で、キムタクがタバコを吸うシーンとかメッチャかっこよかったのになあ」

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