物議を醸した鬼才プロデューサー、マシュー・ハーバートにとっての「ジャズ」とは?

マシュー・ハーバート(Photo by Chris Plytas)

マシュー・ハーバートの10年以上ぶりとなるDJツアーが、4月22日の東京公演を皮切りに全国4都市で開催される。今年3月には、イギリスのEU脱退に対する抗議をテーマにしたマシュー・ハーバート・ビッグバンド名義の最新作『The State Between Us』を発表したばかり。ダンスミュージック界随一の鬼才について、『Jazz The New Chapter』シリーズの監修で知られる柳樂光隆に解説してもらった。

―ビリー・アイリッシュのデビューアルバムって、歯の矯正器具を外す音から始まるじゃないですか。あのカチャカチャって金属音を耳にしたとき、ふとマシュー・ハーバートの顔が思い浮かんだんですよね。

柳樂:いきなり強引だな(笑)。でも、代表作の『Bodily Functions』(2001年)とかそうだよね。タイトル通り、身体の機能音だけでつくった曲とか入ってて。

―ほかにも眼のレーザー手術音を使っていたり、身の回りの生活音をサンプリングしながら独自の音響を奏でている。

柳樂:基本的に、サンプラーに入っているプリセット音とか、他人が作った音をサンプリングするのは禁止なんだよね。

―「PCCOM」のことですよね。ハーバートを語るうえで欠かせないマニフェスト。

柳樂:そうそう。あと、昔のインタビューは特に、「ダンス・ミュージックはすでに一生踊り続けられるくらい作られているから、新しいものはいらない」みたいな発言とか、資本主義/グローバリゼーションに対する批判とか、そういうことばっかりしゃべってたイメージ。自分の哲学に基づいて音楽を作ってきた人なんだろうね。

―彼の音楽って、ポップな遊び心を感じさせる側面と、生真面目でポリティカルな側面の二つがあって。その辺のバランス感覚が、作品やライブによって結構違うじゃないですか。

柳樂:妙に難解というか、呑み込みづらい作品を出すときもあるからね(笑)。そこもハーバートらしさなんだろうけど。

―まず、DJとしてのハーバートは百戦錬磨のベテランらしく、エレガントな空気も放ちつつ、ユーモラスに攻める展開も織り交ぜて、心地よくスリリングに踊らせる印象です。近年は(2015〜2017年のサマーソニック深夜に開催された)HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERのレジデントDJを務めていたけど、基本的にいつも間違いない感じ。



柳樂:バンドセットでもちょくちょく来日してるよね。2015年に恵比寿LIQUIDROOMでやったライブは楽しかったな。

―当時の新作だった『The Shakes』もキャッチーな内容だったし、『Bodily Functions』の人気曲も披露したりサービス精神が旺盛で。

柳樂:高枝切りバサミみたいなマイクで客席の音をサンプリングして、そこから即興でビートを作ってたでしょ。あれはすごくハーバートっぽいパフォーマンスだったな。あの時はサム・クロウっていう、マーク・ジュリアナとかと一緒に演ってるUKのジャズ・ミュージシャンもいたんだよね。

―その前の来日では、ステージ上で豚を調理したのが話題になって。

柳樂:『ONE PIG』を出したときだよね。一匹の豚が生まれてから解体されて、食されるまでの音をサンプリングして作ったアルバム。


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