『ゲット・アウト』の監督が教える「悪夢」のつくりかた

黒人文化の盗用について

『ゲット・アウト』には長く記憶に残る場面が多い。才能あるフォトグラファーのクリスは、盲目の白人の画商が自分の体を乗っ取ろうとしていることを知り、自らの置かれた状況に恐れおののく。その画商は黒人の死体を盗むカルト集団に関与していながら、自分は人種差別主義者ではないと強く主張する。「私は君の目が欲しいだけさ」。画商はそう口にする。「君の目を通して世界を見たいのだよ」

あのシーンには多くの意味が込められているとピールは認める。「盲目である以上、人を肌の色で判断することは文字通り不可能なはずなのに、あの男は人種差別のシステムに加担している。才能ある黒人のアーティストの目を自分のものにすることで、あの男は自分に欠けているものを補うことができると信じてるんだ。それはあの映画のマニフェストと言っていい。またそれはオバマ政権時代に広く共有されていた感情と、黒人であることのアドバンテージという迷信に対する批評でもあるんだ」

ピールが「憧れがもたらす人種差別」と呼ぶ、何世代にも渡って続いてきた白人のセレブリティたちによる黒人文化の盗用は、本作における明確なテーマのひとつだ。「マジでムカつくよな。だからこそ訴えたいわけだけどさ」。ピールはそう話す。制作会社の重役たちをはじめ、周囲の人間から「君の目が欲しい」と仄めかされたことはないかという筆者の質問に、彼は肩をすくめて「まぁね」と答えた。「っていうか、日常茶飯事さ」

しかし、ピールはそのヴィジョンを真の力へと変えてみせる。スパイク・リーの『ブラック・クランズマン』を共同プロデュースしたMonkeypawの躍進も手伝って、彼はJ・J・エイブラムスやスピルバーグのような大物感をまといつつあり、その影響力は急速に拡大している。「巨大な組織を築き上げるなんてことよりも、とにかくやり続けることが大事だと思ってる」。ピールはそう話す。「頭悪そうに聞こえるかもしれないけど、一番面白いのは何かを生み出す過程そのものなんだよ」

ユニバーサル・スタジオでの滞在中、我々はアニメに出てきそうな急傾斜のエスカレーターに乗って展望台に登り、青空の下に広がるロサンゼルスの街並みと遠方の山々を眺めた。そのパノラマに思わずため息をつき、ピールはこう口にした。「伝えたい物語が山ほどあるんだ」


Photo by Frank Ockenfels 3 for Rolling Stone

ジョーダン・ピール
1979年、米ニューヨーク生まれ。大学中退後、コメディアンの道に進み、友人であるキーガン=マイケル・キーとの番組『Key and Peele』で、ピールは名声を手にした。2017年の初監督作『ゲット・アウト』では脚本も務めた。

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE