『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章を迎える前に知っておくべきこと

<醜いものたち>

七大国の領主、アンダル人とロイナー人と最初の人々の女王にして、領地の守護神。いや、サーセイ・ラニスター1世の外見を悪く言うつもりはない。彼女とベッドを共にしたいがために、男たちはいまでも世界中から船を走らせ、そこら中の海で戦をおっぱじめ、軍隊を集めてくるだろう。ここで言いたいのは、彼女の内面は外見ほど美しくはない、ということだ。この点に関しては当の本人も異論がないのではなかろうか。

事態はほんの一瞬、獅子の王妃に好都合な方向へと進んでゆくように見える。初めて敵――デナーリス、ジョン、にっくき弟ティリオン――との謁見を許した彼女は、狂暴化して手の付けられなくなったゾンビ兵を見せられ、亡者たちの手が迫っていることを知らされる。何年も妥協の色を見せなかった彼女だが、銃、もとい弓を頭に突きつけられ、ついにデナーリスのドラゴンとドスラク人の攻撃で生き残ったラニスター軍の出兵を許可。助けを求める人類を救うべく、軍を北へ向かわせた。

ここで思い出していただきたい。ヴァリリアの言葉で「LOL」とはどんな意味だったろうか?

実は首尾一貫、サーセイが謁見を認めたのは計略の上だったのだ。でも、彼女の腹心で威張り腐ったユーロン・グレイジョイがいきなり現れ、亡者をかわしてできる限り遠くまで漕いでゆくと誓ったではないか? 彼には、未来の女王に代わりにゴールデンカンパニーと呼ばれる凄腕の傭兵を招集する、という別の目的があったのだ。弟とあんなに心を通わせていたのに、ラニスター王妃が心変わりしたのは? 敵をそそのかして安心させるため。人類救出のために進軍する気などさらさらない。彼女が望んでいるのはむしろ、ドラゴンと死者の軍団と人間どもが互いに殺し合うのを傍観して、最後に自分が美味しいところをいただこう、という腹積もりなのだ。

ずっと以前に真実を予見していたのでは、という人物も何人か思い当たる。そのうちの1人、サーセスに囚われたエラリア・サンドは、数年前にミアセラ・ラニスター王女を毒殺した仕返しに、地下牢につながれたまま目の前で自分の娘を殺された。もう一人はヤーラ・グレイジョイ。正当な後継者として鉄諸島の女王となった彼女は、狂った叔父に捕まってしまう。唯一の望みは、弟シオンが最後の最後に救けに来てくれること。だが弟は、同じ目に遭ってたまるものかと逃げ出してしまう。

サーセイにも忠実な家臣がいる。彼女の「女王の手」にして黒魔術の使い手、クァイバーン。老マッド・サイエンティストによって生を受けたフランケンシュタインもどきの怪物男、グレガー・クレイゲン、そしてひょっとしたら、ひょっとしたらだが、金があるところならどこにでも行く傭兵ブロンも一味かもしれない……たとえ他のラニスター家の一族とのつながりを断つことになったとしても。

ここで思い起こすのが、サーセイ組から脱退した重要人物、ジェイミー・ラニスターだ。彼女の弟であり、愛人であり、忠誠を誓った護衛役。そしていまでは、死産した赤ん坊の父親でもある。人類を裏切る彼女の策略にすっかり嫌気がさした彼は、彼女と永遠に袂を分かち、守りを固めるべく北部に手を貸す(もちろん片手)。だが、彼の意図は高潔かもしれないが、彼を迎え入れたのはブランの意思でもある――パイロット版で“キングスレイヤー”が自ら窓から突き落とした子供もいまではすっかり成長し、あの時の事件が再び首をもたげてきた。「冬来たる」を家訓とする一族の常識に照らし合わせてみても、二人の再会はかなり冷ややかなものになりそうだ。

Translated by Akiko Kato

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