ロイ・エアーズの証言から解き明かす、ブラックミュージックの先駆者となった4つの理由

3.エレクトリック・レディ・スタジオを拠点とした、ネオソウルにまで繋がる先見性

また、ロイのサウンドはその音色や音像も特徴的だ。ユビキティを結成したのは1970年ごろだが、最初の時点でエレクトリックな楽器を使い、特徴的なエフェクティブな音色を活かしながら、時にサイケデリックな音像を生み出していた。『Ubiquity』のジャケットはアートワークからしてサイケデリックだし、「The Fuzz」なんて曲もある。当時のジャズシーンで、他にこんなサウンドを作っていたアーティストは思い当たらない(ソウルであればスティーヴィー・ワンダーに近いだろうか)。



その流れで注目すべきは、73年の『Red Black & Green』を皮切りに、同年の『Virgo Red』や翌年の『Change Up The Groove』など、70年代の人気作がエレクトリック・レディ・スタジオで録音されていることだ。

1970年にジミ・ヘンドリックスがニューヨークに建設した同スタジオは、73年以前からスティーヴィー・ワンダー『Talking Book』(72年)やレッド・ツェッペリン『聖なる館』(73年)などの有名作で使われているが、ジャズに限定すると71年のラリー・コリエル『Barefoot Boy』、73年のビリー・コブハム『Spectrum』ほか数えるほどの例しかない。

その後も、デヴィッド・ボウイ『Young Americans』やパティ・スミス『Horses』(共に75年)など、ロック〜ソウル中心に使われることが多かったエレクトリック・レディ・スタジオを、ロイのようなジャズ畑の音楽家が使うのは特殊なケースだったと思われる。こういったジャズやソウルの枠だけで捉えきれない音楽観、録音とミックスに対するこだわりが、後年のDJやミュージシャンから再発見され、膨大なサンプリングを生むきっかけになったのは言うまでもない。

―あなたはずっとエレクトリック・レディ・スタジオを使っていましたよね。ジャズミュージシャンでこのスタジオを使っていた人はほとんどいないと思います。

ロイ:私が早い時期に使ったアーティストの一人であることは間違いないね。音楽面での環境は完ぺきだし、最高のスタジオのひとつだったと思う。それに何より、ヒップだった。スタッフもグレイトだったよ。あそこを使うには1時間で170ドルもかかるんだ、当時のトップ・プライスだね。「そっか……OK、なんとかするしかないな」って感じで使ってたよ(笑)。私はエレクトリック・レディに信じられないくらいの大金を費やしたんだ。

―このスタジオを使っていたことと、あなたの音楽にある独特のサイケデリックなサウンドは関係あるんですよね。

ロイ:もちろん。サイケデリック、サイケデリック!!



ちなみに、エドウィン・バードソングは71年の『What It Is』と73年の『Super Natural』でエレクトリック・レディ・スタジオを使っている。この時期のエドウィンはサイケデリック・ロックからの影響が顕著で、ロイが同スタジオを訪れたのも、エドウィンの存在がきっかけだったのかもしれない。

エレクトリック・レディ・スタジオと言えば、90年代後半~2000年代初頭にソウルクエリアンズの面々が入り浸っていたことでも知られる。この時期、ディアンジェロやエリカ・バドゥは、ジミヘンやスティーヴィーなどサイケなブラックミュージックに熱中しており、それが『Voodoo』や『Mama’s Gun』に繋がったわけだが、彼らの影響源にはロイ・エアーズの諸作も含まれていた。

ロイの公式サイトで大きく掲げられているように、エリカは彼のことを「キング・オブ・ネオソウル」と呼んでいる。その発言には、ロイの音楽性やATCQなどにサンプリングされてきた事実、フェラ・クティとの共演を果たした経歴に加え、エレクトリック・レディ・スタジオをいち早く用いて、そのポテンシャルを駆使した先人という意味合いもあるはずだ。

実際にエリカは、『Mama’s Gun』に収録された「Clava」でロイを起用しているし、同作でのキーボードやパーカッション、ボーカルの使い方にはロイが残した70年代の諸作との共通点も見受けられる。エリカはその後も、2004年にリリースされたロイのアルバム『Mahogany Vibe』にゲスト参加しているし、自身の2007年作『New Amerykah: Part One (4th World War)』では、ロイがプロデュースした伝説的グループ、ランプの「The American Promise」をカバーしている。この曲を収録したランプの77年作『Come Into Knowledge』もエレクトリック・レディ・スタジオでレコーディングされたものだ。




そして、ロイがプロデュースした女性シンガー、シルヴィア・ストリプリンが81年にリリースした『Give Me Your Love』には「You Can’t Turn Me Away」という曲が収録されているが、エリカはこの曲を「Turn Me Away (Get Munny)」というタイトルでカバーしている。シルヴィアの曲におけるボーカルやコーラス、ファンキーかつメロウで、サイケデリックでもあるサウンドは、エリカのルーツとも言うべきもの。そんな『Give Me Your Love』もまた、エレクトリック・レディ・スタジオで録音されたアルバムだ。


Translated by Keiko Yuyama

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE