『ブラック・クランズマン』映画評:スパイク・リーの抱腹絶倒な最高傑作

KKKに潜入した黒人警察官の実話を描いた『ブラック・クランズマン』――スパイク・リー監督がまたもや傑作を世に送り出した David Lee

1970年代、アフリカ系アメリカ人の警察官が白人至上主義集団に潜入した実話を、現代社会を厳しく糾弾する作品へ生まれ変わらせた、アカデミー賞脚色賞受賞作品。ローリングストーン誌の映画評論家、ピーター・トラヴァーズによる本作のレビューを掲載する。

※以下、ネタバレ注意!

皆の衆、注目! スパイク・リーが久々に、自己最高かつ最も刺激的な映画を送り込んできた。革新的なスパイク・リーの作品群の中でも、『ブラック・クランズマン』は『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『マルコムX』と肩を並べる作品だ。第一に、根強く残る人種差別の毒と勢力に怒り心頭させられる。コロラド・スプリング警察初のアフリカ系アメリカ人警察官となったロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)の実話をもとにしたこの作品は、ロンがいかにしてクー・クラックス・クラン(KKK)に潜入し、組織の内側から正義のメスを入れたかを描きだす。設定は1970年代だが、昔話を引っ張り出すだけで満足するような監督ではない。世間に火の粉をまき散らすこの映画は、極右勢力・オルト・ライトの「アメリカ・ファースト!」という叫び声にのって、トランプ時代にじわじわ侵蝕する人種的憎悪のなかへ、この映画を投入した。

一筋縄ではいかないリー監督のこと、当然ドキュメンタリーの枠には収まらない。冒頭からいきなり、南北戦争を舞台にした1939年の映画『風とともに去りぬ』のワンシーンでスタート――カメラが徐々に上がっていくと、南部軍の旗が現れ、敬礼――場面は変わって、アレック・ボールドウィン演じる白人至上主義者がニュース映画に登場し、「最高裁判所の間抜けなユダヤどものせいで混血国家が生まれた」と罵倒する。続いて映し出されるのは、D・W・グリフィス監督の1915年のサイレント映画『國民の創生』の場面。観客にKKKによる黒人リンチ賛歌を謳った映画だ。リー監督も言うように、その責任はハリウッドのプロパガンダ構造にある。

ブリッジス警察署長(ロバート・ジョン・バーク)から記録部に配属され、ストールワースはご機嫌ななめ。アフロ頭の新人警官は、配属先で人種差別の格好の餌食にされる。そんな中、最初の潜入捜査のチャンスが巡ってきた。盗聴器を付けて、黒人学生組織(BSU)の集会のようすをレポートするのだ。そこではブラックパンサーの元リーダー、クワメ・ツレことストークリー・カーマイケルが群衆を煽り立てていた。ストールウォースは黒人学生組織の会長をつとめるパトリス(ローラ・ハリアー)に言い寄る。警察を毛嫌いする彼女は、彼の正体を知らない。当時流行っていた『シャフト』や『クレオパトラ危機突破』などの映画では、黒人が警察組織の正義の味方として描かれているよ、と彼が主張すると、パトリスは「ブラックスプロイテーション(注:黒人をステレオタイプ化した映画のジャンル)のたわごとよ」と一蹴する。

Translated by Akiko Kato

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