モトリー・クルーの伝記映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』を事実検証

『ザ・ダート』に登場するトミー・リー役のマシンガン・ケリー、ニッキー・シックス役のダグラス・ブース、ヴィンス・ニール役のダニエル・ウェバー、ミック・マーズ役のイワン・リオン(Photo by Jake Giles Netter/NETFLIX )

Netflixでの独占配信がスタートした、モトリー・クルーの伝記映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』。パメラ・アンダーソン絡みのスキャンダル、無口じゃないジョン・コラビ、ヴィンス・ニールの前任ヴォーカルなど、米ローリングストーン誌が本作の事実関係について検証した。

モトリー・クルーを描いた映画のファクトチェックをするなど、どう考えても馬鹿げたことだ。そもそも、実話に「基づいた」作品だと最初から断っているのだから。それに、この映画はバンドとファンの間にあった“第四の壁”を取り壊して、事実とは異なる演出で面白おかしくバンドの歴史を語っている。加えて、この映画の原作となっている書籍(『the dirt:モトリー・クルー自伝』)は、ニッキー・シックスがレイプに近いかたちで女性と性交したとされる記述に対して、最近「(内容を)かなり盛ったか、でっち上げられた可能性が高い」として当事者のニッキーが反論しているところだ。シックスは、(著者の)ニール・ストラウスのインタビューを受けた頃の自分はドラッグでハイになっていて、当時のことはほとんど覚えていないとすら主張している。

そうなると、次のような疑問が湧いてくる。80年代の10年間、モトリー・クルーの4人が泥酔もしくはドラッグでハイな状態でずっと過ごしていたとしたら、当時の記憶ははっきりしないのではないか? 書籍にも映画にも登場する、「オジーがモトリーのメンバーの前で一列のアリを(コカインのように)鼻から吸引した」という有名な話などは、張本人のオズボーンが覚えていないと主張している。しかし、そう主張しているオズボーン自身も、当時はアルコールで意識が飛んでいた。そんな状態で起きた出来事について、信用のおける話をしている人がいるのだろうか? それとも、これらの有名な話は、どうしようもないほどの機能不全に陥った彼らの海馬が作り出した産物なのだろうか?

そんな疑問はとりあえず忘れて作品を見ると、(米国現地時間3月22日にNetflixで放送開始された)この『ザ・ダート』はモトリー・クルーの歴史の多くの部分を正しく描いている。トミー・リーとニッキー・シックスの当時の髪の毛は、彼らを演じている役者よりもふわふわしていたが、映画製作者は彼らのルックスと80年代のストリップ・サンセットの雰囲気を再現するために相当な準備をしたのは明白だ。また、劇中の演技も原作本に描かれていた内容に忠実である。映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」がクイーンが80年代に作った曲として紹介され、彼らはライブ・エイドの前に解散したという甚だしい改ざんがあったが、そこまでの歪曲は『ザ・ダート』には存在しない。とは言うものの、大なり小なり、史実とは異なる演出がたくさん見受けられるのも否めない。ここでは14場面に絞って検証してみることにしよう。

※以下、ネタバレ注意!



1.トミー・リーがニッキー・シックスと初めて出会う場面が少しおかしい

劇中では10代のトミー・リーがニッキーのバンド、ロンドンのライブをサンセット・ストリップにあったクラブまで観に行き、終演後にデニーズで彼と鉢合わせする。そこでニッキーが「ロンドンはもう終わりだ、新しいバンドをやろうと思う」とトミーに告げる。トミーは高校のマーチング・バンドで叩いた経験しかないと言うものの、ニッキーは彼にドラムを叩くよう説得する。しかし事実は、トミーはスイート19というバンドでドラムを叩いていて、ニッキーは彼らのライブに感銘を受けていた。トミーとニッキーは確かにデニーズで会っているが、それは新たなバンド結成について話し合うためで、そこにはいかなる偶然もない。

2.モトリー・クルーの初代ヴォーカリストを削除

モトリー・クルーが最初のデモを作るためにスタジオ入りしたとき、ヴィンス・ニールはまだバンドに参加していなかった。その頃のヴォーカリストはオーディン・ピーターソンという名前の男で、トミー・リーによると、カルトのイアン・アストベリーとスコーピオンズのクラウス・マイネの中間のような声質だったらしい。しかし、ニッキーはその男の態度が気に入らず、ミック・マーズは彼をヒッピーだと思っていた。これはモトリー・クルーのメンバーとして死刑を宣告されたのと同然だった。彼はあっという間に追い出され、その存在すらバンドの歴史から抹消された。この映画でもその点は同じである(ちなみに、彼は今でもロサンゼルスでモトリーのカバーバンドとライブを行っている)。

Translated by Miki Nakayama

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