モトリー・クルーの伝記映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』を事実検証

11.ミック・マーズが人工股関節置換術を受けたのは2004年

ヴィンスがバンドに復帰した前後のライムラインは絶望的にグチャグチャで、1996〜2005年までの出来事は視聴者を混乱に陥れるレベルの乱れ具合だ。劇中では、ニッキーとトミーがヴィンスと仲直りする前にミックに会いに行き、人工股関節置換術を受けて退院するミックに挨拶する。劇中のタイムラインでは1996年ごろの出来事になっているが、ミックが実際にこの手術を受けたのは2004年だ。

12.実際のヴィンス・ニールの復帰は、映画よりも数倍も複雑だった

映画でのヴィンスは、モトリー・クルー脱退後、毎日お決まりのバーで過ごしている。彼がソロキャリアを始めようとしていた事実は一切描かれてない。脱退から10年後、退院したミックとともにトミーとニッキーがバーにやって来て、一緒に酒を飲みながら再結成について話し合い、涙ながらにわびる。この再結成に関する事実は、劇中のように単純でも穏やかでもなかった。バンドはジョンともう1枚レコードを作るつもりでいたが、マネージャーに急かされて嫌々ヴィンスと会ったのである。彼らが会った場所はハイアットで、その周りには弁護士とマネージャーの一団が座っていた。緊迫した雰囲気の中で話し合いが行われ、最終的にヴィンスがスタジオに顔を出し、彼らが作っているレコードを聞くことに同意したのである。この時点ではジョンはまだバンドに在籍しており、彼をギタリストとして残す案も一瞬持ち上がったが、上手くいかないとの判断でジョンはあっという間に追放された。



13.実は、パメラ・アンダーソンの一連の事件が起きていた

トミーがTVシリーズ『ベイウォッチ』に出演していたパメラ・アンダーソンと結婚したのは1995年で、彼女と知り合ってたった4日後だった。その後、2人の子どもに恵まれた。セックス・テープも出回った。その後、トミーはパメラを暴行したとして逮捕され、半年間を刑務所で過ごし、1998年に離婚した。離婚後、パメラはトミーからC型肝炎をうつされたと告発した。90年代に起きたこれらの醜聞は、モトリー・クルーの活動の何千倍も世間の注目を集めたが、映画ではパメラの名前すら出てこない。劇中では80年代の話として、ツアーバスの中で当時の彼女がトミーの母を「嫌な女(cunt)」と何度も呼び、トミーの肩にペンを突き刺したあとで、彼女を殴るトミーが描かれている。

14.1996〜2005年までの9年間にあった出来事が無視されている

劇中、ヴィンス・ニールが毎日通っていた架空のバーでメンバーが涙ながらハグする場面から、現実のマネージャーであるアレン・コヴァック(本人役)が、アリーナ公演の前にメンバーの楽屋のドアを叩くシーンへと一気に飛ぶ。これはヴィンスがバンドに復帰した直後を暗示するが、この光景は2005年の再結成ツアーの模様だ。1997年のアルバム『ジェネレーション・スワイン』も、1999年のトミー脱退も、2000年のアルバム『ニュー・タトゥー』も、トミーの後釜ドラマーだったランディ・カスティロが2002年に他界したことも、同年バンドが活動休止を決めたことも、映画には一切出てこない。まるで1996〜2005年は何事もなく一瞬で過ぎたような描写だが、『ボヘミアン・ラプソディ』で「ウィ・ウィル・ロック・ユー」が80年代の曲と描かれたことに比べたら、モトリーのこの時期がなかったことになっているのは逆に不幸中の幸いか。



<映画情報>

Netflixオリジナル映画
『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』

2019年3月22日より独占配信開始
https://www.netflix.com/title/80169469

<リリース情報>

『THE DIRT SOUNDTRACK(ザ・ダート:モトリー・クルー自伝(サウンドトラック)』

モトリー・クルー
『THE DIRT SOUNDTRACK(ザ・ダート:モトリー・クルー自伝(サウンドトラック)』
定価:¥2,300+税
発売元:ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ

Translated by Miki Nakayama

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