モトリー・クルーの伝記映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』を事実検証

3.彼らがヴィンス・ニールと知り合ったのは裏庭でのパーティーではない

『ザ・ダート』でのヴィンスの初登場シーンでは、ある裏庭でのパーティーでビリー・スクワイアの「My Kind of Lover」を歌っているヴィンスに、最前列の女性が熱狂している(ちなみに、この時点で「My Kind of Lover」はリリースされていない)。現実では、当時ヴィンスはカバーバンドで活動していて、モトリーとの最初の顔合わせが行われたのはウエストハリウッドのザ・スターウッドだった。ヴィンスは劇中で描かれたよりも長い期間、モトリーを避けていたため、ヴィンスが最初のジャムセッションへの参加を承知するまで、基本的にモトリーのメンバーが彼をストーキングしていたことになる。また、最初のジャムで演奏した曲は「ライヴ・ワイヤー」ではない。この時点で、ニッキーはこの曲をまだ作っていなかった。



4.トム・ズータウトはそれほど簡単にレコード契約しなかった

映画版のモトリー・クルー物語では、エレクトラの若いA&R代表がバーでバンドと30秒ほど会話したあとに契約を交わしている。このプロセスを遅くしている唯一の要因は、テーブルの下で突然フェラチオを始めようとする女だけだ。実際には(「サタデー・ナイト・ライブ」のピート・デヴィッドソン演じる)ズータウトと知り合う前に、彼らはバンドの音楽をリリースする目的で自主制作レーベルのリーザー・レコーズを立ち上げている。ズータウトが最初にバンドと接触したとき、彼らはズータウトを完全にいぶかしみ、契約書にサインするまでの長い説得期間中に何度も食事をおごらせた。さらに、バンドはヴァージンからのオファーも受け取っていた。最終的にズータウトが彼らとエレクトラのレコード契約に持ち込むが、現実はバーで出会ってすぐというほど簡単ではなかったのである。

5.ドック・マギーは、彼らのアパートでバンドに会っていない

劇中のメタモーメントの一つが、バンドの未来のマネージャーとなるドック・マギーが登場する場面だ。ドックは粗暴なパーティーゲストを殴り倒す。するとミックがカメラを向いて、「これは実際には起きていない。ドックはこんな豚小屋みたいなアパートに一度も来なかった。俺たちが最初に会ったのはサンタモニカ・シヴィック・センターで、あれはライブのあとさ。彼のパートナーのダグ・サーラーも連れて来ていたよ。ダグはいいヤツだったから、映画からカットされたのはちょっと気分悪いな。でも、この演出もけっこういいと思うぜ」と、視聴者に説明する。その前に、楽屋の入り口にいるドックの後ろに立つダグが一瞬見えるが、この時点で彼の存在は完全に消えている。しかし、自分たちが演出を加えて、重要な登場人物を消し去ったと製作者サイドが認めている点を褒めようではないか。

6.ヴィンス・ニールはザ・フォーラムの楽屋で、トム・ズータウトの彼女とセックスしていない

ロサンゼルスのザ・フォーラムでモトリー・クルーのライブが開催される数分前に、ヴィンスが自分の楽屋でズータウトのガールフレンドとセックスし、楽屋のドアノブには彼女のヒョウ革のビキニがかかっているというシーンが出てくる。まず、モトリーが初めてザ・フォーラムでライブを行ったのは1985年だ。一方、ヴィンスが楽屋で誰かの彼女とセックスしたのは1983年のことで、それがズータウトの彼女だったことも、その女性がヒョウ革のビキニを着ていたのも事実だ。しかし、場所はUSフェスティバル会場で、ザ・フォーラムではない。また、セックスしたのはライブ後であって、ライブ前ではない。映画のズータウトは、何年も経ってその事実を知ったときに「あれは本当に辛かった」と言う。しかし事実は、その女性はズータウトにとって特別な人でもなく、心の痛みも感じず、この出来事を知った彼は逆に面白がっていたのである。

Translated by Miki Nakayama

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