リンゴ・スターとイーグルスのジョー・ウォルシュが語る、長年苦しんだアルコール中毒と薬物依存症の苦悩

2018年に行われたNational Council on Alcoholism and Drug DependenceのFacing Addictionガラに登場したリンゴ・スター。

イーグルスのギタリストのジョー・ウォルシュとビートルズのリンゴ・スターが、長年苦しんだアルコール中毒と薬物依存症の経験談を赤裸々に告白。アルコールや薬物から解放された喜びと、それに至る恐怖や苦悩をローリングストーン誌に語ってくれた。

ニューヨークのレインボールームのセンターステージにジョー・ウォルシュが登場したのは、霧に煙る秋のある夜だった。彼の手にギターはない。そして、彼は誰もが隠したがる問題を告白した。「俺はジョー、アルコール中毒だ」と。もちろん、これは会場の観客を和ませるための冗談だが、着席しているスーツ姿の男性客ときらびやかなドレスをまとった女性客に、依存症が対岸の火事でも、暗い過去の出来事でもないことを印象づける目的もあった。しかし、彼の冗談めいたスピーチとは裏腹に、この問題はアメリカ国内4500万以上の家庭を脅かす悪霊でもある。マディソン・スクエア・ガーデンをソールドアウトにするアーティストも例外ではない。

71歳になったイーグルスのギタリストは、このとき「アルコールから開放」されて25年を迎えていた。この夜、ウォルシュは依存症更生コミュニティにおける活動を認められて最高位のヒューマニタリアン賞を授与された。これはNPO団体Facing Addiction(依存症と向き合うの意)とNational Council on Alcoholism and Drug Dependence(NCADD:アルコール依存と薬物依存の評議会の意)が共同で授与した賞だ。ウォルシュの妻であるマージョリー・バックもこの受賞式で夫の背後に立ち、夫が冗談を述べている間もナプキンで喜びの涙を拭っていた。バック自身も素面になって27年が経つ。夫に先立って、バックは夫が死んでしまうかもしれないと感じる恐怖について真剣な表情で語った。ウォルシュの姻戚のリンゴ・スターとバーバラ・バックがこの賞のプレゼンターとして登場したのだが、この4人は全員がアルコールから開放されて四半世紀を超える。

この夜、派手な世界で生きる才能に溢れた人々の依存症の更生経験談が数多く語られ、彼らは依存という狡猾な怪物との戦いの大変さを認めた。そしてステージは、カントリーのシンガーソングライター、ヴィンス・ギル、ドゥービーブラザーズのマイケル・マクドナルド、ブッチ・ウォーカーが引率するオールスター・トリビュート・コンサートへとなだれ込んだ。彼らは「テイク・イット・トゥ・ザ・リミット」や「この人生に賭けて」などでおなじみのウォルシュのリフをプレイに入れ込みながら、ロックなライブを披露した。61歳のギルは途中でイーグルスと一緒に演奏するシュールな喜びについて語る一方で、自分の兄が若い頃にアルコール依存症に負ける姿を見たときの痛みについても語った。25年以上前の話だとギルは前置きしたが、「ロッキー・マウンテン・ウェイ」を演奏し始めて、ここでイーグルスのウォルシュと一緒に演奏することがギルの子供の頃からの夢の実現というだけでなく、長い間開いていた傷口の痛みを和らげる効果もあったことが見て取れたのである。

ウォルシュにとっての最後のリハビリとなった1995年のリハビリ施設入所後、彼は人生をやり直すためにギターをあきらめるしかなく、一生ギターを手放す可能性すらあった。彼自身も再びギターを弾けるとは思っていなかったのである。20年間という歳月の中で、ウォルシュは結婚し、最終的に音楽に復帰する道を見つけた。これには義理の兄弟であり、素面の同志でもあるリンゴ・スターの助けが大きかった。2012年、ウォルシュは素面になって初のソロ・アルバム『Analog Man(原題)』をリリースした。「素面の今の方が前よりも上手くプレイするってみんな言うよ」とウォルシュが言った。「でも、今の俺にとって一番大事なことは、今日一日酒を飲まないで過ごしたと言えることなんだ」と続けた。

楽屋で横に並ぶスターとウォルシュは奇妙な組み合わせに見えた。方や薄紫のサングラスをかけた弁舌さわやかなイギリス人ドラマー、もう一方は金属のように輝く白金色の髪のギターの神様だ。とはいえ、ウォルシュより9歳年上のこのリバプール人は、優しい叔父のようにせっかちに質問に答えながら、おとなしい義理の兄弟への質問の矛先を自分に向けようとしているようだった。ウォルシュは静かに座りながら、その言葉を聞いてあれこれ考えを巡らせている。しかし、ワインドアップを十分にしたピッチャーのように、ウォルシュが口を開くと、その言葉は驚くほど強力だった。

―ローリングストーン誌(以下省略):お二人はご自身のアルコールおよび薬物依存について、さっきじっくり話しましたが、長年ひた隠しにしてきた問題の更生を象徴する公人になった気持ちはどんなものでしたか?

スター:そうだな、俺の場合は自分から告白したわけじゃない。連中がアリーナの上でヘリコプターを飛ばして、秘密を見つけたって感じさ(笑)。

ウォルシュ:俺はいつも隠そうとしていた。カバンにはウォッカが入っていたが、誰にも知られていなかった。発覚したときは俺が本当にダメな男だって世界の半分に知れ渡ったよ。つまり、俺のケースでは端っから匿名性なんてなかったということだ。

―依存をやめたきっかけは何ですか?

ウォルシュ:アルコール依存症だった人々との仲間意識と分かち合いのおかげで素面になった。そうやって俺は素面になった。その2〜3年後には、他のアルコール依存症患者に自分の体験談を話し、彼らを助けようとしていた。アルコール依存症患者を助けられるのは、自分もかつて依存症になり、それを克服した体験者だけなんだよ。

Translated by Miki Nakayama

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