もしもGoogleが世界最大の音楽企業を買収したら?

メロドラマ風に言えば、Alphabet/GoogleとUMGとの結婚が魅惑的になるのは、音楽ビジネスとYouTubeとの間で長く続く敵対関係があるからだ。Google傘下のYouTubeは世界最大の音楽ストリーミングサービスだが、ソングライターやアーティストへの支払いに関して激しい批判を招いている。YouTubeでは毎月約16億のユーザーが、“無料”で(広告付きの)音楽を再生している。世界的な総視聴時間からみると、あらゆる音楽とビデオのストリーミングプラットフォームのユーザー全てを併せたよりも多くの楽曲に、YouTubeのユーザーはアクセスしている。

全米レコード協会(RIAA)のデータによると、YouTubeの1曲あたりの平均支払額はSpotifyの7分の1だという。また、1ストリームあたりのロイヤルティは0.00074ドル(約0.08円)という低レベルだという証言もある。さらにYouTubeは(自分に責任はほとんどないものの)、デジタルワールドにおいて急速に広まっている音楽の著作権侵害行為である楽曲の“ストリームリッピング”の一番の温床となっている。

「ストリームリッピングや、多くの巨大テック企業による責任の欠如が音楽の価値を下げており、成長努力を続ける音楽業界の深刻な脅威となっている」とRIAAのミッチ・グレイジャー会長は、YouTubeを念頭に非難の声を上げている。

YouTubeは現在、月9.99ドル(日本版は月額1180円)のサブスクリプションアプリYouTube Musicを立ち上げたが、権利者らとの緊張関係は依然として高まっている。業界の大半は、EUの著作権司令第13条による規制強化を支持している。EUで検討されている第13条は、YouTubeのような“ユーザーアップロード型”サービスに対し、自社のプラットフォームにアップロードされた全ての権利侵害物に関する法的責任を負わせる新たな法令だ。

もしも第13条が現行の形で議会を通過すると、音楽の権利者の多くが今よりずっと有利な立場でGoogleとのグローバルライセンス交渉の席に着くことができる。(複雑な問題だが、実質的にユニバーサル、ソニー、ワーナー等は自分たちの楽曲がYouTube上でどのように扱われるかをもっと管理できるようになる。つまり、ロイヤルティの引き上げ交渉の良い機会ともなる。)

しかしもしもGoogleがUMGの50%を取得したり、或いはUMGを完全に傘下に置いたとしたら…?(ヴィヴェンディは、例えば400億ドルなどある程度の値が付けばUMGを完全に手放すのではないか、と疑う声もある。)Googleが巨額の資金をUMGに投じる戦略的理由とは何だろうか?

憂慮すべき手がかりは、米国を拠点としSiriusXMやPandoraを傘下に持つリバティメディアにありそうだ。同社CEOのグレッグ・マッフェイは最近あるアナリストから、UMG株を購入することによる自社のビジネスに与える利点について問われ、次のように答えている。「例えばSiriusXMの場合、同社の負担するコストの中でコンテンツサプライヤー向けの割合が最大でないにしろ、大きなものであった場合、それらコストをヘッジする方法を身につけることには興味がある。」

YouTubeに当てはめて考えてみると、第13条(と改正法案は数か月内に承認される予定)が承認された場合、世界最大の音楽権利所有者に対する直接的な影響力を持つことは、Google/Alphabetにとって魅力的なモチベーションになり得るだろう。この先ずっと、YouTubeの無料利用枠における音楽ライセンスコストを最大限低く抑え続けられる可能性があるのだ。

一方、レコード業界と“無料”音楽との恋愛関係は急速に冷めている。ゴールドマン・サックス等は、今後10年間でレコード会社が財政的に大きく成長すると予測している。大きな要因のひとつは、何億人もの新たな消費者が財布を開け、SpotifyやApple Music等のサブスクリプションにお金を支払うことによる。

しかしこの有料モデルは、カルチャー的にGoogleのビジネスの中核をなすポリシーに反する。Alphabetの財務状況を垣間見ると、Googleのグローバルビジネスがサブスクリプションと対照的な広告にどれほど頼っているかがわかる。同社の2018年第4四半期の収益393億ドル(約4兆3800億円)の内、83%に当たる326億ドル(約3兆6300億円)が広告収入によるものだった。

YouTubeが将来を賭けているのは、2018年に世界中のテレビ広告に費やされた1950億ドル(約21兆7400億円)が、無料デジタルビデオへとますます流れ込んでくることだ。YouTubeの現行ユーザーによる音楽(MV含む)の流行から判断すると、世界最大のレコード音楽企業との戦略的関係は、テレビ広告から収益を奪うというミッションにとても役に立つだろう。

Apple、Liberty Media、Tencentも、UMGの売却先の有力候補と業界では噂されている。しかし音楽業界の多くの人々にとってはやはりGoogleが、同レースにおける悩ましいダークホースとなっている。

Googleが有力なダークホースである理由として、同社による最近の音楽関連企業への投資実績が挙げられる。2015年Google Venturesは、UMGのライバルであるコバルト・ミュージック・グループに対する6000万ドル(約66億8800万円)の資金調達ラウンドを実施した(同社は2019年現在、年間5億ドル以上を稼ぎ出している)。Googleはまた、数百万ドルをインディレーベルの300エンターテインメントへ投資している。同レーベルは、現在YouTubeの音楽グローバル部門のトップを務めるリオ・コーエンがかつて運営していた。さらに、YouTubeのCEOスーザン・ウォシッキーとUMGの会長兼CEOサー・ルシアン・グレンジとは友人同士だと言われている。もっとも、UMGの有力売却先がヴィヴェンディとの交渉のテーブルを囲んだ時に、両者の友人関係が何かの役に立つかどうかは定かでないが。

そして、お金にまつわる些細な問題がある。前述の通り、400億ドル規模のオファーを受けた場合にヴィヴェンディはUMGの半分以上を売却するのではないか、と多くの人々が思っている。Alphabetの2018年における現金および現金同等物と有価証券の期末残高は、1090億ドル(約12兆1500億円)だった。

GoogleはUMGを買収するだけのお金を持っている。あとはやる気があるかどうかだ。状況を見守りたい。

Translated by Smokva Tokyo

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