ザ・バンドとボン・イヴェールを繋ぐ逸材、コナー・ヤングブラッドが新しすぎる理由

─こうやって話していると、コナーの人物像にも興味が湧いてきますね。アッパーなのかダウナーなのか、本当にリア充なのか。

柳樂:「What’s Up Man?」みたいな感じではなさそうだけど、その可能性もあながち否定できないというか(笑)。

─ちなみに、彼の祖父はアフリカ系アメリカ人で、父親は人種差別に対する抗議運動をしていたそうです。コナーは学生時代にアメリカ研究をしていたそうですけど、そんなバックグラウンドも彼のアイデンティティに大きな影響を与えているんだとか。

柳樂:『Cheyenne』というタイトルも、ネイティヴ・アメリカンの「シャイアン族」に由来しているんですよね。そういうスピリチュアルな文脈も含めて、今の流行でいうとニューエイジっぽい感じもある気がします。

─というと?

柳樂:LAシーンの重鎮に、カルロス・ニーニョという音楽家がいるんですけど、彼は2010年代に入ってから、ヤソスっていうニューエイジのパイオニアと一緒に活動しているんですよ。要するに、ヒッピー・カルチャーから連綿と続く、本格的にスピリチュアルな人たちがやってるメディテーション音楽ですよね。

あとは、今年に入ってリリースされたコンピレーション『Kankyo Ongaku: Japanese Ambient Environmental & New Age Music 1980-1990』や、モーゼス・サムニーもよく聴いていると語っていた電子音楽家の吉村弘など、日本産のアンビエント/環境音楽が海外で再評価されている流れがありますけど、そういう近年のトレンドともコナーの音楽は噛み合ってる気がします。


ヤソスの1975年作『Inter-Dimensional Music』のタイトル曲


『Kankyo Ongaku〜』に収録された吉村弘「Blink」

─言われてみれば『Cheyenne』のジャケとか、アルバムの随所で聴こえるシンセの音色もかなりニューエイジっぽいですね。

柳樂:これは先日、ニューヨークに行ったときに聞いた話なんですけど。今ってシリコンバレーとかで働いてるアメリカ人のエリートが、コロラド州のボルダーにめっちゃ移住してるらしいんですよ。ボルダーって高地トレーニングとかで有名な、本当に何もない場所で。

─大自然に囲まれたロハス発祥の地ですよね。

柳樂:そうそう。最近のアメリカではメンタルヘルスの問題が深刻で、Netflixの『KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜』が流行っているのも、そういうスピリチュアル方面の需要があるからですよね。そんな背景もあって、本当に何にもないボルダーにみんな行っちゃうから地価も上がってきているそうです。

─へえ、おもしろい。

柳樂:あと、これもアメリカに行ったときの話で。「Greenlight Bookstore」っていう、インディペンデントな出版物とか、尖った内容の本を売っている有名な本屋があるんですよ。そこの音楽書のコーナーにサン・ラと並んで、アリス・コルトレーンの伝記が面陳してあって。レコード屋に行っても、アリス・コルトレーンの再発盤がめちゃくちゃ置いてあるんですよ。

─最近リリースされたソランジュの新作『When I Got Home』にも、アリス・コルトレーンは大きな影響を与えているみたいですね。

柳樂:女性でアフロ・アメリカンということに加えて、東洋思想やインド音楽に影響を受けているのが大きいんだと思います。(夫の)ジョン・コルトレーンがインドにハマったきっかけも彼女だと言われているけど、そのスピリチュアル感が今のアメリカ人をヒットしているんでしょうね。そのアリスのオリエンタルでサイケデリックな部分は、近年再評価されてるアンビエント~ニューエイジの巨匠ララージとかにも通じる部分があると思うんですよ。


アリス・コルトレーンの1971年作『Journey in Satchidananda』のタイトル曲

─今の話は、イェール大学出身のエリートであるコナーが、心の安らぎと美しい自然を求めて世界を旅したのと通じるものがありそうですね。そんな時代のサウンドトラックが『Cheyenne』だという見方もできるのかもしれない。

柳樂:冒頭のほうで「ひとり録音なのに開かれている」という話をしましたけど、このアルバムがもつオープンな雰囲気やオーガニック志向は、スピリチュアルなものに癒しを求める世相ともリンクしている気がします。そう考えると、コナーは新しい時代のシンガー・ソングライター作品をひと足先に作ってしまったのかもしれないなって。

─つまり、“早すぎた”アルバムなのかもしれないですね。

柳樂:いずれにせよ、尖った音楽が好きな人に届いている感じがしないのはもったいないですよ。これは極端な例かもしれないけど、90年代だったら坂本慎太郎の音楽からピーター・アイヴァースを掘り下げたり、ガスター・デル・ソルとか山本精一の音楽を愛聴していたようなリスナーが、2019年にコナーを聴いてみるのもいいんじゃないかな。

─今度のライブはどんな感じになるんでしょうね。ベーシストを迎えた二人編成とのことで、コナーがいろんな楽器の音を重ねながら歌うスタイルなのかなと思いますけど。

柳樂:開かれた場所にも合う音楽だし、ビルボードでじっくり聴き浸るのも良さそうですよね。どうしても音像とか音響に意識が引っ張られちゃうけど、メロディも上質だしファルセットも綺麗じゃないですか。そういう素の部分が際立つパフォーマンスを期待したいですね。

─たしかに、ライブによってソングライティングの良さが浮き彫りになるかもしれない。

柳樂:コナーはいい声しているし、今後はフィーチャリング参加もどんどん増えていきそう。いろんな話をしましたけど、あんまり難しく考えないで、最高のBGMとして楽しむのが正解かもしれないですね。





コナー・ヤングブラッド来日公演

〈東京〉
4月15日(月)ビルボードライブ東京
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11296&shop=1

〈大阪〉
4月17日(水)ビルボードライブ大阪
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11298&shop=2

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