ザ・バンドとボン・イヴェールを繋ぐ逸材、コナー・ヤングブラッドが新しすぎる理由

─コナーは名門イェール大学の出身なんですけど、彼の経歴で興味深いのが、大学時代にザ・バンドの論文を書いていたこと。本人曰く、カントリーからロックまでつなぎ合わせるソングライティングが好きだったとか。

柳樂:『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』を改めて聴くと、サウンドの構造がちょっと変で。ヴォーカルが必ずしも前に出ているわけでもないし、音自体は生々しく録れているんだけど、どこか質感がおかしかったりする。その感覚は『Cheyenne』にも通じるものがあると思うんですよ。ローファイでぼんやり霞んだ音像もそうだし、音の位置関係も変わっている。ドラムの音がやたら前のほうにあったり、すごく後ろのほうからハミングしている声が聴こえてきたりとか。


ザ・バンドの1968年作『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』収録曲「I Shall be Released」

─2曲目の「Los Angeles」でシャカシャカ鳴ってるタンバリンもそうですよね。多重録音を駆使しつつ、生音をどうやってシンフォニックに聴かせることに注力しているというか。

柳樂:そうなんですよ。基本的にすごくオーガニックだし、音にもヒューマニティがある気がします。コナーはトランペットやクラリネット、コントラバス、ホルンとか、あえて人間っぽい不安定で温かみのある音を入れたい人ですよね。デジタルな感覚はあまり強く出したくないというか。そこもナチュラリストっぽいし、ジャケットの感じに通じるものがある。



─ボン・イヴェールの近作や、彼のフォロワーたちが持つテクスチャーがデジタル寄りなのに対し、アナログでオーガニックな音作りにこだわっているのはコナーの個性と言えるのかも。

柳樂:たしかに。ヴォーカルもやっぱり特殊で、基本的に良いとされるものって、エモーショナルで聴き手に直接語り掛けてくるようなものじゃないですか。でも、この人の場合はスクリーンをあいだに挟んでるような感じがするんですよ。歌声がクリアじゃないというか、ちっとも語り掛けてくれない感じ。もしかしたら、歌とかメッセージよりも、サウンドそのものを届けたいのかもしれないですよね。そこもすごくザ・バンドっぽい。

─ザ・バンドの特異でオーガニックな音楽性を、DTM以降の感性でもって「ひとり」でコントロールしようと。そんなふうに『Cheyenne』を解釈すると、なんだか物凄いアルバムのように思えてきます。

柳樂:しかも、途端にアメリカのルーツ・ミュージックっぽく思えてくるというね。だけど一方で、南米のサウダージっぽい感じもするんですよ。アルトゥール・ヴェロカイのようなブラジリアン・メロウ・サイケにも通じるフィーリングがあるというか。

─あと、『Cheyenne』には「Stockholm」や「The Birds of Finland」など、北欧の都市をイメージしながら作られた曲も収録されています。

柳樂:音楽性でいうと、スウェーデンのスティーナ・ノルデンスタム辺りにも通じる部分がありますよね。繊細だけど開放感があるサウンドはたしかに北欧っぽい。こうやって掘り下げていくと、越境的なセンスをすごく感じますよね。とんでもないバランス感覚を持っている人なんだろうな。


アルトゥール・ヴェロカイの1972年作『Arthur Verocai』収録曲「Pelas Sombras」


スティーナ・ノルデンスタムの1994年作『And She Closed Her Eyes』収録曲「Little Star」


RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE