Mr.Children「あるべきバンド像を求めたシンプルな衝動」

サポートメンバーに、お馴染みのキーボーディスト・SUNNYと、今ツアーから参加している世武裕子(Key&Cho)を迎えて、「SINGLES」から幕を開けた。アルバムはドラムとベースが重たく鳴るような音作りがされていたが、ライブでも、JENこと鈴木のドラムに自然と目を奪われる。フロアタムを強く叩く音がずしりとアリーナ全体に響き渡り、桜井は、まるでアスリートのような肉体と体力で、一挙手一投足を大きく動かして全身で表現する。1曲を終えた後に湧き上がったオーディエンスの声は、「待ってました!」という声援や、桜井に向けられた黄色い声援以上に、人間の凄みが伝わるようなパフォーマンスや快楽的な演奏を目の当たりにしたときに思わず声が出てしまうような、そういった類の声色だった。


Photo by Shin Watanabe

CD音源ではアコギのダウンストロークと歌だけで始まる「NOT FOUND」が、この日は、桜井に「Mr.Childrenの骨格を鳴らしてる男の音です」という言葉を添えられたJENの激しいドラムからスタート。ロックバージョンにリアレンジされた「NOT FOUND」に登場する「僕」は、これまで何度も聴いてきたこの曲の「僕」とは別の人格、また違う顔を見せてくるようだった。

そんなロックモードのMr.Childrenを引き立たせていたのが、映像と照明の演出だった。ステージの後ろと左右に巨大な映像を背負い、「HANABI」ではステージの床さえもスクリーンになっていることに気づかされる。8曲目「花 -Mémento-Mori-」では花道にメンバー4人が並び、それぞれの後ろにスクリーンが並ぶような演出が施された。そんな豪快なスクリーンたちに投影されていた映像は、ほとんどが抽象画で、まるで音から飛び出てきた色を表現しているかのようなものばかりだった。もちろんメンバー自身がスクリーンに映される場面は多々あったものの、それ以外の具象画といえば、「Worlds end」のときに出てきたビルのグラフィックくらいだろうか。これまでのMr.Childrenのライブでは、歌のストーリーを膨らませたりメッセージを伝えたりするような映像を使われることが多かったのに、今回は、そういった映像の作り方でなければテクノロジーの凄さをアピールするようなものでもなく、あくまで楽器から鳴る音を際立たせるために映像があるような形だった。


Photo by Shin Watanabe

10曲目「Dance Dance Dance」では、青、緑、赤、黄色、紫など、カラフルなレイザービームが放たれ、次の曲「ハル」では会場全体が鮮やかなピンク色に染まる。ステージ上だけでなくフロア全体の所々に照明が吊るされていて、会場全体を彩るような照明演出が施されていたこともユニークな点だ。

最新技術の映像・照明システムを取り入れながらも、それらが何かを多く語ったり目立ったりするわけではなく、さりげなく、シンプルに、演奏を際立たせるようなものとなっていた。「こんなMr.Childrenのライブ、観たことない」。そんなシンプルな驚きが、このツアーの衝撃的な印象のひとつだった。

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